となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
 今日、気に入って買った大き目のお皿に焼きあがったハンバーグを乗せ、お手製のソースをかける。スープのお皿は買ってないのでマグカップに注ぎ、大きさの違う茶碗にご飯をよそった。フォークやナイフは買ってないので、今日はお箸で頂く。
 なんとか用意は出来たが、まだ買わなけれんばならない物がありそうだ。だんだん買い揃えていくのも、楽しい気がしてきた。

 私は、この生活が楽しいと思い初めていた。


 出来た料理をテーブルに並べると、彼がお風呂から出てきた。

「うわー すげっー」

 彼は、テーブルの上の料理を見るなり声を上げた。


 彼は、本当に驚いているようだが、それほどの事ではないと思う。彼のような、お金持ちなら、もっと凄い料理を目にしていると思う。それに、ほぼ外食なら舌も肥えているだろう。
 なんだか、急に不安になって来た…… こんな素人の料理、口にあうだろうか?


 彼は自分で冷蔵庫を開けてビールを出したのだが、食材の入った冷蔵庫に、またもや歓声をあげていた。


「いただきます」

 お互いに向き合って座り手を合わせた。


 箸を持って、真っ先にハンバーグに手を伸ばした彼をじっと見つめる。

 彼は、噛み締めるように頷いたかと思うと、あっという間に平らげてしまった。


「ああー 旨かったー。ご馳走様」

 彼は、満面の笑みで手を合わせた。


「本当ですか? 広瀬さんいつも高級な物食べていらっしゃるので、貧相な食事でごめんない……」


「はあ? 自分のために作ってもえたなんて、それだけでも嬉しい。でも、本当に旨い! ……
 だが、広瀬さんじゃない!」

 彼は、満足そうな笑みの後、ギロリと私を睨んだ。


「あっ、一也さん…… に、喜んでもらえて良かったです……」


「さん……も、いらないんだよな……」

 彼が、ブツブツと言っているのが聞こえたが、正直勘弁して欲しい……

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