となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
「なぁ。そんなに怒る事はないだろ?」

 …… ……


 私は黙って、朝食をテーブルに並べた。
 椅子に座ると、一也も向きあって座った。


「いただきます」

 手を合わせると、箸を手にして黙ったままご飯を口に入れた。



「わるかったよ…… だけどこればっかりはしょうがないだろう? 一週間だぞ、一週間! 友里に触れてないんだぞ! あんな色っぽい寝顔見せられたら、無理なんだよ……」


 一也は、箸を持ったまま見つめてくる。



「だからって、寝てるうちになんて酷いよ…… せめて、起こせばいいじゃない!」

 少し涙目になった顔を向けた。



「じゃぁ起こせば『いい』って言ったのかよ?」


「それは……」

 思わずうつむいてしまう。



「だろ? いいじゃねえか、友里も気持ち良かっただろ?」



「ばかーーーー!」


 大きな声で叫ぶと、席をたった。



 玄関に向かう途中で思い出し、一也の方へ振り向いた。


「あ、そうだ…… 今夜遅くなるから、先に寝てて」


「おい、なんだよそれ」



「今夜、会社で送別会があるのよ!」


「そんな事聞いてないぞ!」

 一也の声が少し荒くなった。


「言ってませんから。 言う時間もなかったじゃない!」


 私は、バタンと玄関のドアを少し乱暴に閉めた。
< 98 / 125 >

この作品をシェア

pagetop