となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
 分かっている。一也だって、仕事が忙しいのだ。私だって今夜の事はちゃんと話ししたくても、ほとんど一也と話す時間が無かった。
 本当は、そんなに遅くなるつもりもなかったのに……


 でも、でも、今朝の事は許せない。寝ているうちに裸にするなんて……
 私だって、正直一也に抱いてもらえなくて寂しいと思っていた。
 だけど、こんなの……



 「いってらっしゃいませ」

 コンシュルジュが穏やかな声をかけてくれたような気がする。


 「行ってきます!」

私は、真っすぐ前だけを向いて大股でエントランスを抜けた。



 あのコンシュルジュに、態度が悪かったと反省するのは大分時間が経ってからだった。



 こみ上げてくる涙をぐっとこらえて駅への道を歩いた。


 駅に近づくにつれて、イライラが寂しさと重なって来る。
 喧嘩しちゃったな……

 私ってなんなのだろう?
 一也の家に、居候させてもらっている。生活費は全部彼が面倒みてくれている。少し後ろめたい気持ちがあったのは確かだ。
 だから、体の関係になっているなんて思ってない。
 
 一也は、私の事好きだって言ってくれたから……


 怒って出てきちゃったけど、一也は呆れてしまったんじゃないか?
 

 胸の奥で、少し不安の影が落ちた気がした。


 
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