溺愛の価値、初恋の値段

食材を入れたエコバッグを手に、飛鷹くんのマンションに着いた頃には、すっかり日が暮れていた。
いろいろと買い物をしたせいで、帰ると連絡してから二時間ちかく過ぎている。


(思ったよりも、遅くなっちゃった)


飛鷹くんから何度も着信があったのに、急いでいたのと鞄へ入れっぱなしにしていたせいで、バスを降りる寸前までまったく気づかなかった。


(きっと、心配してるよね……)


足早にエントランスへ向かおうとして、ギクリとした。

傍らの植込みに誰かが腰掛けている。


(ふ、不審者……?)


俯いていた人影は、わたしの足音に気づいたらしく、弾かれたように顔を上げた。


「海音っ!」


パッと立ち上がって駆け寄って来たのは、不審者ではなく、飛鷹くんだった。

皺だらけのシャツにジーンズ姿、髪もくしゃくしゃ、かろうじて髭は剃っているものの、全体的にヨレヨレ。
とても、キラキラニコニコ王子様のイケメンIT実業家とは思えないくらい、憔悴しきった顔をしていた。


「お……遅くなって、ごめんなさい。晩ごはんの買い物してたら……」



「…………」




(き、気まずい……)




「あ、あの…………オムライス、好き?」





飛鷹くんは、驚いたように目を見開いた。





「た、卵が特売で……たくさん買ったからっ……晩ごはん、オムライスにしようと思うんだけど…………食べる?」











「……食べる」


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