溺愛の価値、初恋の値段
二人で作るオムライス②


わたしを目覚めさせたのは、アラーム音でもなく、朝日でもない。
「ぐうぅ」というお腹の虫の鳴き声だった。


(お腹、すいた……)


ぐったりした身体をどうにか起こし、辺りを見回す。
ベッドの上に、ひとりきり。
そして、全裸。


記憶はしっかりあるので、パニックにはならないものの……羞恥心にひとり赤くなる。


(と、とにかく……起きよう)


現在の時刻は、午後十時五分前。
こんな時間からごはんを食べるなんて、どうかと思うけれど……。
飛鷹くんもお腹をすかせているはずだ。

とりあえず、まずはシャワーを浴びようと身体に巻きつけたシーツを引き摺るようにして、バスルームへ向かう。


「あ……」


ちょうど出て来た飛鷹くんと鉢合わせした。


「海音も、お腹すいて起きたの?」


なんとなく、気恥ずかしくてまっすぐ顔を見られない。
裸で抱き合ったからというよりは……ありのままの気持ちを話してしまったからかもしれない。


「……うん」

「じゃあ、これから晩ごはん作って食べよう」

「うん、す、すぐに作るね?」

「シャワーしてからでいいよ。先に、材料切ったりしておく」

「あ、ありがとう」

「海音。ちょっと待って」


飛鷹くんは、あたふたとバスルームへ駆け込もうとするわたしを捕まえて、抱きしめた。


「ひ、飛鷹くん……」

「十分ね」

「え?」

「十分で、出てこなかったら……俺が海音を洗うから」

「――っ!」


わたしは、いまだかつてないほどの速さで、シャワーを浴びた。
髪は、完全に乾かしきれなかったけれど、しかたない。
ぐるぐると巻き上げて、なんとかお団子にして服が濡れないようにした。

好きな人の前でするような恰好ではないのでは、と思ったけれど……飛鷹くんには逆らえない。

急いでキッチンへ向かえば、みじん切りにしたタマネギ、ニンジンと小さい賽の目に整えた鶏肉が用意されていた。

「もう、炒めるだけだね?」

「俺がチキンライスを作るから、あとは海音がやってくれる? どう頑張っても、上手く包めないんだよね」

「うん」

 
音無さんの家のキッチンほどではないけれど、ここのキッチンも二人で作業するのに十分な広さがある。

飛鷹くんがチキンライスを作っている間に、わたしはブロッコリーを茹で、ミニトマトを洗う。


「できた」


オレンジ色のチキンライスが出来上がったところで、交代する。


「これ、使って」


飛鷹くんが棚から取り出したオムレツ用のフライパンは、だいぶ使い込まれていた。


「飛鷹くんのマイ・フライパン?」

「そう。これがあれば、上手く作れるってテレビでやってたから買ったんだけど……ぜんぜん、ダメだった」


まさかのテレビショッピングとは……。
飛鷹くんは、オムライス作りにずいぶん苦しんでいたようだ。


「やり方教えてあげるよ?」

「それは、今度でいい。今日は、ちゃんとしたオムライスが食べたい」


飛鷹くんのひと言に、ハッとする。

わたしには、もう一つ、言わなくてはいけないことがあった。

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