溺愛の価値、初恋の値段


「でも……家政婦は、もう必要ないんだよね」

「え」

「その代わり……恋人とか……別のものが必要」


わたしの上に覆い被さる飛鷹くんは、首筋からデコルテへ、さらにその下へと唇でなぞりながら、時折痛いくらいに吸いつく。

何度も繰り返されるうちに、痛みと気持ち良さの違いがわからなくなってくる。


「海音……まだ気になることある?」


胸の中のモヤモヤは、すっかり晴れたわけではないけれど、絶え間なく与えられる刺激に、頭が回らない。


(し、集中できない……これって色じかけって言うんじゃ……)


ごまかされているような気がするのは、考えすぎだろうか。


「すぐには思いつかないなら、後でもいいよね?」


うん、と言ってしまいそうになるのをどうにか堪え、なんとか言葉を紡ぎ出す。


「で、も……ほかの、ひと……」

「してない。言ったでしょ。結婚を考えていない相手とヤるつもりはないって。ずっと一緒にいたいと思ったのは、海音だけだから」


(ん? ということは、つまり……?)


「誰ともしてない……ってこと?」

「…………」


再び動きを止めた飛鷹くんが、叫んだ。


「……そうだよ。海音とするのが、初めてだったんだよっ!」


暗がりで見えないけれど、おそらくその顔は真っ赤だろう。

征二さんが言っていたように、飛鷹くんは見かけによらず真面目で、いろんなことを我慢していたらしい。


「見かけによらずって、どういう意味? 海音は、俺のことなんだと思ってるの? あの頃、俺がどれだけ我慢していたかわかってるの?」


むっとした表情の飛鷹くんに問い詰められる。
またしても声に出ていたようだ。


「あっ、あの、でも、あれが初めてだったとは……とても思えなかったんだけど。……どうやって勉強したの?」

「……勉強する方法は、いろいろあるんだよ」

「いろいろって……?」

「もう、黙って。いくら勉強しても……海音で実践しなきゃ、身につかないから」

「…………」


再び、飛鷹くんがわたしの身体を探究し始めたため、何も考えられなくなる。


勉強熱心な飛鷹くんなら、あっという間にいろんなことを憶えてしまうだろう。
勉強嫌いなわたしが、飛鷹くんに追いつくのは無理かもしれない。



でも、あの頃のように……飛鷹くんが教えてくれるなら。






ごほうびをくれるなら、
わたしでも……頑張れるかもしれない。




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