溺愛の価値、初恋の値段
溺愛の価値
六月最初の日曜日。


太陽の光が降り注ぐ中、緑の芝生が美しい郊外の小さなレストランで、雅とロメオさんの結婚パーティーが開かれた。

ジェズアルドさんの知り合いのお店で、お料理はイタリアンづくし。

お互いの家族と親しい友人だけを招いたアットホームなパーティーなので、堅苦しいコース料理ではなく、大皿料理やピザが立食形式で振る舞われている。


六月の花嫁は、幸せになれる――。

そう言われている根拠はまったく知らないけれど、雲一つなく晴れ渡った空を見れば、きっと明るく、幸せな未来が待っていると信じられる。

雅とロメオさんは、教会式ではなく人前式を選んだので、この場にいる全員が二人の結婚の証人となった。

大半の人が笑顔で見守る中、羽柴先生はずっと泣きっぱなしだったし、花婿のロメオさんも同じだった。二人の心中は、相反するものだと思うけれど……。

そんな二人の様子を見ていた音無さんも、「とても他人事とは思えない……」と涙ぐんでいた。


「ところで……海音さんと飛鷹くんは、いつ結婚するの?」


実は、わたしと飛鷹くんは、指輪こそしているものの、まだ籍を入れていないし、結婚式もしていない。

その理由は……。


「準備に時間がかかりそうなので……十一月くらいになると思います」

「飛鷹くんは会社関係者も招くの? 盛大な披露宴になるんだろうね」

「え、ええと、そういうわけじゃなくて……そのう……し、白無垢と……色打掛と引き振袖を……作ってもらうのに時間がかかるので……」

「それ……もしかして、海音さんの希望じゃなく、飛鷹くんの趣味?」


音無さんは、少し離れた場所にいる飛鷹くんをちらりと見やる。

飛鷹くんは、ロメオさんの結婚式のためだけに、二泊四日という強行日程でアメリカから飛んで来た、会社の人たちにさきほどからずっと捕まっている。


「……ハイ」


飛鷹くんは、盛大な披露宴はしたければしてもいいし、したくなければしなくてもいい。ただし、わたしの花嫁衣装は「和装」にしてくれと言い張った。

生地から依頼し、帯やかんざしまでトータルコーディネートするほどご執心で、わたしには「ぜったいに髪を切ってはいけない」と厳命した。

俺様暴君ぶりは、健在だ。


「海音さんは着物が似合いそうだから、その気持ちはわからなくもないけれど……いいの? 自分が着たいものを着たほうがいいよ?」

「わたしは、どちらでもかまわないので……」

「甘やかしすぎじゃないかな?」

そうかもしれない。
でも、どうせ着飾るなら、飛鷹くんが喜んでくれるほうが、わたしも嬉しい。


「海音さんがいいなら、いいんだけど……。もう、心配する必要はまったくなさそうだね? 料理も楽しくできているみたいだし」

「はい」


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