溺愛の価値、初恋の値段
オムライス契約を破棄する
容赦ない家庭教師・飛鷹先生のおかげで、わたしの成績はメキメキ伸びた。

二年生の学年末テストでは四十九番。三年生になって最初の学期末テストで四十番、次の学期末では三十五番という成績を修め、担任ほか各教科の先生たちに「まぐれじゃなかったんだな」と驚かれた。


わたしも飛鷹くんも、「オムライス契約」のことは誰にも話さなかった。


学校で仲良くするどころか、挨拶さえもしなかった。

そうしようと決めたわけではないけれど、お互い「裏の顔」ならぬ「素の顔」を学校では知られたくなかったのだ。

わたしは相変わらず眼鏡に三つ編みだし、飛鷹くんは相変わらずイケメンのモテ王子。三日に一度は告白されている。


秘密の関係が、いつまでも続かないことはわかっていた。

頭のいい飛鷹くんと頭の悪いわたしの道は、この先どんどん離れていく。

飛鷹くんは、超難関と言われる有名私立高校へ。わたしは、公立高校へ進む。海外の大学への進学を視野に入れている飛鷹くんは、これからますます勉強が忙しくなるだろうし、わたしは高校生になったらアルバイトをするつもりだから、いまのように毎週会えるかどうかわからない。

そもそも、彼氏彼女でもないのだから、頻繁に会う必要もないのだ。

どんどん迫るタイムリミットに、時々、息が苦しくなる。
彼がわたしのオムライスを「美味しい」と言うのを聞くたびに、胸の奥がぎゅっとなる。

頭のいい飛鷹くんは、わたしが彼を好きだと、きっと気づいている。
何も言わないのは、そういう関係になりたくないからかもしれない。

彼女になれなくても、せめて友だちでいたい。
飛鷹くんと同じ高校へ行きたい、なんて思ってしまう。


わたしが勉強する動機は、とても不純だ。


実は、こっそり飛鷹くんが受験する私立高校に願書を出そうかと考えている。
九十九パーセント受からないとは思うけど。

 
そんなふうにして、コトナカレ主義のわたしは、なにも伝えられないまま中学三年生の冬を迎えていた。
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