溺愛の価値、初恋の値段

「ただいま」


玄関を開けた飛鷹くんは、そのままズカズカと部屋の中へ。


「く、く、靴っ!」


土足なんて、と驚くわたしに、飛鷹くんは「あ? 気になるなら脱いでいいよ。そのへんにあるスリッパとか履いて」と言い捨てる。

その辺というのは、どの辺だろう。

玄関の片隅、スニーカーやらサンダルやらが積み上げられた中に、かつてはスリッパだったらしきものの一部が覗いていた。

あれを履くのとこのまま土足で入るのと、大きな違いはなさそうだ。

廊下に点々と落ちているタオルや紙くずに不穏な空気を感じつつ、広々としたリビングへ足を踏み入れたわたしは、絶句した。


「え……」


軽く二十畳はあろうかというリビングは、「足の踏み場もない」という形容詞がそのまま当てはまる惨状だった。

脱ぎ捨てられたシャツやズボン、靴下……カラフルなXXX(たぶんパンツ)。丸められたティッシュやスナック菓子の袋(中身若干入ってる)、カップラーメンやコンビニ弁当の容器などが散乱していた。


「……どうしたら、こうなるの? わざとなの?」


思わず訊きたくなるのは、自然なことだと思う。

飛鷹くんは、顔を背けて呟いた。



「いつの間にか、こうなってたんだよ」



(いつの間にかと言うには、無理があるよねっ!? 飛鷹くんっ!)



心の中で思い切り言い返した時、リビングの奥から、この世のものとは思えないうめき声が聞こえ、額に日の丸付きのハチマキをした大きな人影が飛び出して来た。

その手には、きらめく日本刀がある。



「この、裏切り者めがっ!」



「ひっ!」


思わず飛鷹くんの背中に隠れたわたしを見ると、その人影は日本刀を放り出した。



「あれ? 君は……」



床に突き刺さらなかったところを見ると、どうやらプラスチック製らしい。




「アマネちゃんっ!? 海音ちゃーんっ! 会いたかったよっ!」




「だ……ダレデスカ」


わたしには、こんな変人の知り合いはいない。


「僕だよっ! ロメオだよっ!」


聞き覚えのある名に飛鷹くんの背から、顔だけ覗かせて観察する。

目の下に黒々とした隈を作り、髭も生やしっぱなし、髪もぐちゃぐちゃ、甚兵衛姿……にもかかわらず、あきらかに日本人ではない。


「あ……ナンパ?」


つい二週間ほど前にバーで出会ったうさんくさい外人さんに、似ていた。


「ナンパじゃないよ! ロ・メ・オ! こんなイケメンの名前を忘れるなんて、どうかしてるよっ!?」


自分でイケメンと言える心臓の強さに感心しながら、一番の疑問を質す。


「ロメオさんが、なぜここにいるんですか?」

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