溺愛の価値、初恋の値段
火曜日のお花見②

(あれは、どう見ても京子ママの家に飛鷹くんが遊びに来た時に撮ったものだった。でも……飛鷹くん、画像を加工したのかな? 笑える変顔が撮れたって言ってたのに)


すきやき鍋への具材の投入は、すでに三巡目。

激しいお肉争奪戦に参戦するきっかけを失ったまま、わたしはロメオさんに見せられた画像について、延々と考え続けていた。

お花見から帰宅し、寮に帰るという雅を引き止めて、夕食を一緒に食べようと言い張ったのはロメオさんだ。

メニューが「すきやき」になったのは、雅のリクエスト。
夕食係に立候補したロメオさんは、雅の手厳しい注文にもデレデレしっぱなし。

それでも、ちゃんと要求されたとおりにニンジンを桜の形にし、しいたけにハートマークの切れ目を入れ、高級国産和牛肉を薔薇のごとく美しくお鍋にセッティングして、最終的には雅の歓心を勝ち取っていた。


「海音。なんなの、さっきから。なんか言いたいことあるの?」

 
気持ちいいくらい勢いよく白米を食べていた飛鷹くんが、手を止めてわたしを睨んだ。


「え……な、ナンデモナイデス。ゴメンナサイ」


じっと見つめてしまっていたのは事実なので、慌てて目を逸らす。
しかし、謝ったくらいで引き下がるような飛鷹くんではない。


「なんでもないなら、穴が開きそうなほど見つめないでしょ。何か気になることがあるんなら、さっさと言えば?」

「ちょっとなんなの? その偉そうな口のきき方はっ! 海音は、あんたの下僕じゃないのよっ!」


わたしの隣に座る雅が、すかさず飛鷹くんに噛みついた。


「み、雅、落ち着いて……」

「雅。空也はね、海音ちゃんの前だと中学生になっちゃうんだ。許してあげて」


 ロメオさんのフォローに、飛鷹くんが眉を吊り上げる。


「誰が、中学生だよっ!」

「中学生というより幼稚園児……うっ」


 ロメオさんがなぜか悶絶しているが、飛鷹くんは涼しい顔だ。


「それで、中学生の飛鷹くんは、海音をいつまで監禁するつもり?」


飛鷹くんとお肉を巡る密かなバトルを繰り広げていた雅は、にっこり笑って尋ねる。


「監禁なんかしていない! ……ちゃんと雇用契約を結んでいるし」


飛鷹くんは、むっとした顔で言い返す。


「雇用契約ですって? どういうことかしら。あの時の話では、そんなことはひと言も言ってなかったわよね?」


(あの時の話って……?)

< 84 / 175 >

この作品をシェア

pagetop