キミ観察日記
「ただいま」

 少女が靴を揃えていると、少年が先に家にあがった。

「ちょっと。脱ぎ散らかさないで」
「オッサンは?」
「大学」
「まだ学生やってんの。留年でもしたか」
「医学部は6年だよ」

 制服の上からエプロンをつける、少女。

「オレのとこ明日から夏休みなんだ。オマエは?」
「わたしも」
「色々思い出すんじゃね。特にこの時期は」

 白く輝く少年の髪を見ていると、光の少ない島で落ちてきそうな星空を与一と――それからセンセイと見上げたことを昨日のように思い出す。

 星空だけじゃない。

 花火も、イルカショーも、他愛もない日常だって。

「ヨイチが一緒にお風呂入ってくれなくなった」
「オレが入ってやろうか」
「嬉しくない」
「オマエほんと可愛げなくなったよな。そんなんだとオッサン、今にオンナ作るぞ」
「えっ」
「今日まだ帰ってきてねーのも。よろしくやってたりしてな」
「ちがうっ……ヨイチは……忙しいから」
「ンな地球滅亡の日みたいな顔すんなよ」
「ヨイチ、かっこいいもんなあ。面白いし。かわいいし。優しいし。モテるだろうな。わたしじゃ子供すぎるのかな」
「美化しすぎじゃないか? アイツはモテないだろ、確実に」
「そうだといいな」
「まあ。なんの心配もいらねーよ」

 少年は、少なくとも自分は、目の前にいる少女よりも美しい女は見たことがないと思った。
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