敏腕専務はウブな彼女を染め上げたい~イジワルな彼の甘い言いつけ~
真面目でうぶな彼女をあえて困らせて、恥ずかしがらせたい。森にひっそり咲いている花を、弄って揺らして、花びらが落ちるのを見たい──。

そんな、むくむくと湧いてくる誠実とはほど遠い欲望のように、空の浴槽を洗い流せばシャワーの湯気が立ち込める。

曇った眼鏡を外し、ため息交じりにひとりごちる。


「堕ちるのかな、俺……いつぶりだ?」


しばらく仕事に精を出していて、恋愛の類は眼中になかった。

特に、職場の女性はそういう対象にはならないと思っていたから意識していなかったのだ。こんなに好奇心をそそられる存在がいたのに。

ダークホースのごとく、予想外にも大きな関わりを持ち始めた森次花乃が、あっという間に心を占領していくのがわかる。きっと、そのうちストンと呆気なく堕ちる。


しかし、俺を紳士的な男だと信じきっている彼女に、果たして素の自分をさらけ出せるだろうか。俺が抱えている秘密はこれだけではないのだし……。

少なくとも、今がそのときでないことは明白だ。今夜するべきなのは、ただ彼女に安心して眠ってもらうこと。

気持ちを切り替えて湯を溜めるスイッチを入れ、リビングダイニングに戻る。いつもの紳士的な顔を貼りつける俺を見て、森次さんはコーヒーカップを両手で持ったままふわりと微笑んだ。

その笑みに癒されつつも、心の奥底で不純な想いを抱く。

──俺がこんなどうしようもない男であることを、彼女はまだ知らない。


< 45 / 153 >

この作品をシェア

pagetop