敏腕専務はウブな彼女を染め上げたい~イジワルな彼の甘い言いつけ~

「桜もあっという間に散ってしまいましたね」


緑が多くなってきた桜並木を、運転しながら眺める生巳さんのなにげないひとことにドキッとした。数日前の誕生日の出来事が、呆気なく蘇ってくる。

「そっ、そうですね」と答えながら、やっぱり忘れるなんて無理だ……と落胆した。

今、私たちが向かっているのは、TOBARIの社員食堂。今日がランチをいただく日なのだ。

本来は、生巳さんとふたりで出かけられるならたとえ仕事でもワクワクしてしまうのだけど、あんなことがあったあとでは気まずくて仕方ない。

桜の花びらがはらはらと舞うのを目に映していると、彼は思い出したようにこう告げる。


「そうだ、今週の金曜なんですが、高校の同級会があって顔を出さないといけなくなったんです。私の夕飯はいりませんので」

「わかりました。楽しんできてくださいね」


同級会か。しばらく会っていない私の地元の友達も、皆元気でやっているかな。

ふいに故郷が懐かしくなる。生巳さんにも馴染みの友人たちと楽しい時間を過ごしてきてほしくて、ふわりと微笑みかけた。

ところが、彼は前を向いたまま曖昧に口角を上げる。
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