モブ子は今日も青春中!
第八章
プレゼントを買いました
クラスマッチの次の日は土曜日だった。明日も明後日もお休みで、終業式が終われば冬休みがやってくる。
街はクリスマス一色で、あちらこちらでサンタとトナカイの歌が流れていた。
クリスマスイブまで、あと3日。
今日は1人、ウィンドウショッピング。気晴らしになればいいなと思う。
『クリスマスは一緒に過ごしたい』
そんなことを言っていた兄ちゃんは、今はもう家にいない。
クラスマッチの日、家に帰ると、兄ちゃんは外泊の準備をしていた。
勉強に集中するために本当の…もう1人のお母さんのところに行くと言った。
私は兄ちゃんが、『経営学部』を目指していることも知らなかった。
企業のコンサルティングというものに興味があるのだと、あとからお母さんに教えてもらった。
国立大学の経営学部は数が少ないから、倍率もかなり高いらしい。
それでも兄ちゃんはがんばっているんだそうだ。
自分がいかに、兄ちゃんの一側面しか見ていなかったのか気づかされる。
最後に玄関で、頭をなでてくれた兄ちゃんの姿を思い出す。
急にいなくなるなんて、少し寂しい。
まわりを見れば、楽しそうに歩くカップルばかりが目につく。
兄ちゃん、今なにしているかな?勉強がんばっているかな?そんなことばかり考えてしまう。
ふと、男性もののセレクトショップに目が止まった。
そう言えば、兄ちゃんはどんなものが好きなんだろう。
誘われるようにクリスマスソングの流れる店内に吸い込まれる。
高価なものは買えないけれど、何かプレゼントしたい。
私はスマホで調べたり、店内をうろうろと歩き回りながら考えたりして、ようやく少し高級なシャープペンシルを購入した。
兄ちゃん、喜んでくれるかな?
プレゼントを買うと、相手の反応に期待してワクワクしてしまう。
今、ここが『黄昏のロマンス』の世界で私が主人公なら、そう少なくない確率で会えるのにな、なんて考える。
そんなにうまくはいかないよね。
「かたる!おまたせ。」
女性が呼ぶ兄ちゃんの名前にハッとする。反射的に声のした方に目が行く。
「こんなに買ったの?ほら、こっちに貸して。持ってあげるから。」
兄ちゃん…ときれいなお姉さんが、一緒に歩いていた。
「うわっ、ちょっとよろけるなよ。脚大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫!かたるは優しいね。」
とても楽しそうに、幸せそうに、街にあふれるカップルのようで。
私は、買ったばかりのプレゼントを手に、その様子をただ呆然と眺めていた。