モブ子は今日も青春中!
第八章

プレゼントを買いました


 クラスマッチの次の日は土曜日だった。明日も明後日もお休みで、終業式が終われば冬休みがやってくる。 
 
 街はクリスマス一色で、あちらこちらでサンタとトナカイの歌が流れていた。
 クリスマスイブまで、あと3日。
 
 今日は1人、ウィンドウショッピング。気晴らしになればいいなと思う。
 

 『クリスマスは一緒に過ごしたい』
 そんなことを言っていた兄ちゃんは、今はもう家にいない。

 クラスマッチの日、家に帰ると、兄ちゃんは外泊の準備をしていた。

 勉強に集中するために本当の…もう1人のお母さんのところに行くと言った。

 私は兄ちゃんが、『経営学部』を目指していることも知らなかった。

 企業のコンサルティングというものに興味があるのだと、あとからお母さんに教えてもらった。

 国立大学の経営学部は数が少ないから、倍率もかなり高いらしい。
 それでも兄ちゃんはがんばっているんだそうだ。

 自分がいかに、兄ちゃんの一側面しか見ていなかったのか気づかされる。

 最後に玄関で、頭をなでてくれた兄ちゃんの姿を思い出す。

 急にいなくなるなんて、少し寂しい。


 まわりを見れば、楽しそうに歩くカップルばかりが目につく。

 兄ちゃん、今なにしているかな?勉強がんばっているかな?そんなことばかり考えてしまう。


 ふと、男性もののセレクトショップに目が止まった。
 
 そう言えば、兄ちゃんはどんなものが好きなんだろう。

 誘われるようにクリスマスソングの流れる店内に吸い込まれる。
 
 高価なものは買えないけれど、何かプレゼントしたい。

 私はスマホで調べたり、店内をうろうろと歩き回りながら考えたりして、ようやく少し高級なシャープペンシルを購入した。

 兄ちゃん、喜んでくれるかな?
 プレゼントを買うと、相手の反応に期待してワクワクしてしまう。

 今、ここが『黄昏のロマンス』の世界で私が主人公なら、そう少なくない確率で会えるのにな、なんて考える。

 そんなにうまくはいかないよね。


「かたる!おまたせ。」

 女性が呼ぶ兄ちゃんの名前にハッとする。反射的に声のした方に目が行く。

「こんなに買ったの?ほら、こっちに貸して。持ってあげるから。」

 兄ちゃん…ときれいなお姉さんが、一緒に歩いていた。
 

「うわっ、ちょっとよろけるなよ。脚大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫!かたるは優しいね。」

 とても楽しそうに、幸せそうに、街にあふれるカップルのようで。

 私は、買ったばかりのプレゼントを手に、その様子をただ呆然と眺めていた。


< 34 / 48 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop