イケメンの恋愛観察日記

エレベーターから2階の経理部のフロアに降りると、私を経理部の皆が取り囲んだ。

「相笠さんっ加瀨さんと同棲してるの?」

「プ、プライベートの加瀨さんってどんなの?やっぱカッコイイ?」

女子が普段の拓海が気になるのは分かるけど、男性社員が気になるのは何でだろう?

「どんなっていつもと一緒よ。」

「ええっ?!うそ~甘い言葉を耳元で囁いたり、お洒落なフレンチとか食べながらワインを飲んだり…無いの?」

加瀨 拓海というイケメンに夢見てるな~。

「いいや~?ないよ?」

今日は一日イケメンと同棲ってどんな感じ?とか聞かれまくるんだろうな~。

そして始業時間になった。粛々と仕事をこなしていく。お昼前、各種手続きの書類の束をファイルしている時に、1階の受付から内線が入った。

『相笠さん、受付に梅垣さんという△△物産の方がお見えなんですが…。』

ウメガキ?名前に心当たりはないがお勤め先には心当たりがある。貴司が専務、貴明義兄が代表を務めている会社だ。因みにその上の会長は義母だ。

取り敢えず1階の受付へ向かうと背の高い男性が立っていた。誰だろう?受付の水田さんが私に気が付いてその背の高い男性がこちらを見た。

知らない人だ。

「あの私が相笠 千夏ですが…。」

するとその男性はパッと笑顔になると

「日曜日にお会い出来るのを楽しみにしておりましたが、ご都合が悪くなったとお聞きして非常に残念に思っておりました。」

と言って名刺を差し出して来た。

△△物産第三営業部 第一課課長 梅垣 伸也

日曜日…?お会い出来なくて?

あっこの人もしかしてお見合い相手か!なるほどっ!確かに将来有望そうな感じだ。なかなかのイケメンだし、小綺麗でパリッとしている。持ち物も洗練された感じだし…。

う~ん?いやあのね

私を誰だと思っているのだ?愛の巡礼者…尊き想いを胸に秘めた愛の彷徨い人を統べるものだよ!

こんなイケメンがおひとり様な訳ないよ。私の審美眼を舐めるなよ! 

「日曜日にお会い出来なかったので今日は居ても立っても居られずに、お勤め先まで押しかけてしまいました。」

なにこれ?私、お義母様にもお義兄様にも断ってくれと話したはずだよね?

私は「こちらへ…。」とロビーにあるソファに梅垣さんをご案内した。

「それでご用件は?」

すると梅垣さんはニッコリと微笑みながら

「僕という人柄をまず知って頂こうと思いまして…それから時間をかけてお互いのことを理解していければ良いかなと思います。」

と言ったんだけど…。何だって?

「私、柘植社長や専務にもお断りのご連絡を入れさせて頂きましたが?」

私がそう言うと梅垣さんは若干怯んだ。やっぱり、断ったの知ってるよね?

「ぼ…僕と直接会ってみれば気も変わられるかな~と思ったのですが、どうですか?」

「どうもしませんね。やっぱりご遠慮致します。」

私がきっぱりと言い切ると梅垣さんは顔を強張らせている。そして…

「何がご不満ですか?僕は見た目だっていい。そして今は△△物産の課長です…。行く行くは柘植専務の元で部長になり…社長に認められた暁には次期専務の道も…。」

と自身の経歴自慢をしてきた。はぁ…次期専務ね。

「随分と出世するご予定なんですね、それは良かったです。話がそれだけでしたらもう失礼しますね?」

私がソファから立ち上がりかけると、いきなり私の手を掴んできた。

「柘植会長の愛人の子供なのでしょう?会長からのご指示に従わなくて宜しいのでしょうか?」

寝耳に水だ。私がいつ義母の愛人の子供になったのか?

私は梅垣さんの手を振り払った。

「何かを勘違いされているようですが、私と柘植会長は赤の他人です。私の親戚が昔お世話になったとかで、今でも親身になって頂いているだけです。」

梅垣さんは顔色を変えた。私はもう一度座り直すと少し声を潜めた。

「梅垣さんは今、お付き合いされている方がいらっしゃるんでしょう?」

梅垣さんはハッとした顔を一瞬したが

「あなたにお会いするのにすべて清算しました!」

と清々しく言い放ってきた。

清算…まるでしつこく残ってた経費の書類みたいな扱いだな…。こんな出世欲だか何だか分からないことでフラれちゃった彼女が気の毒で仕方がない。

「私に取り入っても出世とは無縁ですよ。只の普通の会社員です。」

梅垣さんは更に顔を強張らせた。

「そんな…だって柘植社長直々に打診された相手で…社長の話しぶりから親族の誰かなんだって…俺はこれで出世の…って。」

そんな不確かな情報を鵜呑みにして、別れを告げられてしまった彼女が不憫過ぎる。

「それに私、婚約者がいますの。それで柘植社長にお断りをさせて頂いたんですけど、聞いてないです?」

梅垣さんはブルブルと震えている。

「か…彼氏がいるからとしか…。」

またやんわりした断り方したな~。貴明兄様めっ…!

するとそこへ拓海が駆けて来た。

「千夏っ。」

うわわっ!別に見られてやましいことはないけれど、何だか修羅場?みたいな雰囲気かもしれないと思いつつ、何故か拓海が私を背後に庇ってしまったので不覚にもヒロインポジに収まってしまって、逃げ場がない。

どうすんだ、コレ?
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