イケメンの恋愛観察日記
月曜日の朝
愛を謳う男、拓海は朝からランニングで出ているようだ。
取り敢えず今日から一週間は洋食の朝御飯にしてみよう。トーストの上にピザソースとチーズをたっぷりかけて焼いて、根野菜スープを作った。
オニギリを握り、具材を鮭、カツオ、梅の三種類にする。豚肉と牛肉で根野菜の残りの野菜を巻いて、小麦粉をつけていると拓海が帰って来たようだ。
「ただいま〜。おはよ。」
「おはよ…。」
朝から眩しい生き物だ。恋する男は自ら発光するのか?
拓海はニコニコと笑いながら近づいて来ると、私の体を引き寄せてきた。
「ちょっと!私の手が使えない時に卑怯よ!」
拓海は小麦粉まみれの私の手をチラッと見てから、ニヤリと笑った。
嫌な予感。
手で防御も取れない私に朝からベロチューを仕掛けてきた!いい加減にしろっ!
悔しいことに嫌じゃない。はっきり言ってしまうと昨日の夜、車中で襲い掛かられた時に拒めばよかったのだが……嫌じゃなかった。
あのまま続きをしても……良かったとすら思った。
はあぁ…思わず溜め息が漏れる。
お弁当を作り終えて、お弁当袋に詰めていると、ペロンとスマホがメッセージを知らせてきた。
『おはよう ちーちゃん、今週末の連休泊まりに行っていい? 悠太』
「あれ…また急だね。」
拓海の引っ越しが月曜にあるけど、別に大丈夫だよね?
『いいよ。泊まりにおいで』
返事をして出勤準備をして拓海と家を出た。え~と拓海さんが手を差し出しておられますが?
「せめてマンションを出てからにしてくれ!」
と怒鳴るとニンマリと拓海は笑っている。いやな笑いだ。
エレベーターで降りて行く時に6階のおじ様とご一緒になって朝のご挨拶をする。
先日おじ様の奥様が拓海とジムで会ったと騒いでたよ~と話しかけてきた。拓海はおじ様と爽やかに世間話をしている。
6階のおじ様は某会社の重役様なのでお迎えの外車が下のロータリに到着している。
「すげっ…外車ばっかりだ。」
「ほとんどが会社のお迎えかお抱えの運転手なんだよ~。」
「すげーな。」
おじ様はじゃあね~新婚さん!と手を振って外車に乗り込んだ。新婚じゃねぇし!
「新婚だって~。」
拓海も一緒になってニヨニヨするな!
ニヨニヨするイケメン様と手を繋ぎ2人で駅に向かって歩き出していて思い出した。 あ、そうだ!
「さっき悠太君からメッセージきてたけど…。」
「悠太?なんて?」
あれ?拓海お兄様には連絡してないの?え~と
「今度の連休にこっちに泊まりに来たいんだって。」
「はぁ?聞いてねぇし!っち…俺引っ越しだってのに…。」
拓海さん、ながらスマホはいけませんよ?まあ私が手を引いて危険がないように誘導してあげますがね…。
拓海はスマホにメッセージを猛烈なスピードで打ち込んでから鼻を鳴らした。
「何だよアイツ…。あ、返事返ってきた。…っち!」
また舌打ちしている。どうしたんだろう。画面を見せてくれた。
『ちーちゃんにはOK貰った。兄ちゃんの許可はイラネ』
「反抗期?」
そう聞くと拓海はものすごい鋭い目で画面を睨んでいた。
まあまあ~そんな怒ることないじゃない?朝から不機嫌な、愛を謳う者の手を引いて電車に乗り込んだ。
朝、経理部に行くと川上さんと市川さんが戸口で立ち話をしていた。
「おはよ~。」
「おはよ、今日も朝から一緒だったね!良いな~同棲って。」
と川上さんに朝から冷かされた。
「おはようございます。私は嫌だな~朝から不細工スッピンを彼氏に見られるなんて絶対やですよ。」
「あれ?イッチーそんなこと言っても、結婚したら毎日旦那さんにスッピンや寝顔見られるんだよ?」
と私が言うと市川さんは顔を引きつらせた。いやぁぁ~と言っている市川さんの向こう側で経理部の第一課の課長が「おーい相笠さん」と私を呼んだ。
「加瀨君から居住所の変更用の書類欲しいって聞いてるから、これ渡しておいて。」
課長はそう言ってA4サイズの茶封筒を差し出してきた。
「相笠さん、社会保険の手続きいつにする?」
「はっ?」
「加瀨の扶養家族になるんだろ?」
ま、まだだ!気が早い!まだ婚約すらしていない!
「まだまだ先です!」
ちょっぴり大きい声で叫んで皆から見られた。恥ずかしい…。
□ □ □ ■ □ □ □ ■
営業に出ようと嘉川と2人で一階のロビーを歩いていると、経理部の課長とかち合った。
「さっき相笠さんに加瀨君の書類渡しておいたからね。」
「あ、ありがとうございます。」
課長もこれから区役所に用事があるらしい。3人で表に出た。課長は何かを思い出したのかニヤニヤしている。
「そういえば、相笠さんに加瀨君の扶養家族に入るのか?って聞いたらさ…。」
「っ!ちょっとまだ先です…。」
課長は益々ニヤニヤする。
「分かってるよ〜相笠さんもさ、まだ先です!て叫んでたんだけど顔真っ赤にしちゃってて皆にバレバレで…あれは可愛いね〜。」
「はい、可愛いです。」
真顔で答えると嘉川と課長に散々冷やかされて小突かれた。
だって本当にツンデレ可愛いんだもんな、仕方ない。