イケメンの恋愛観察日記
そのお見合い話を聞いた週末…加瀨と嘉川と三人で飲みに出かけていた。

「あんた達の新しい素敵な恋バナはないの?あんた達に群がるハエを叩き落すが如くの恋愛話はもう聞き飽きたから、身を焦がす萌え上がる様な熱い恋愛話を聞かせなさいよ!」

私が待ち合わせ場所の居酒屋に入るや否やそう加瀨 拓海(かせたくみ)嘉川 基尚(よしかわもとなお)に聞くと、2人は視線を交わした後に

「俺、そろそろ結婚しようかな~と思って…。」

と、嘉川が照れながら幸せ尊いビームを出してきたので、私は迷わず『愛の狩人』の日記を出してきた。本人を前に観察日記を書くな!と、言われそうだが加瀨と嘉川には

「私は恋愛に身を焦がしている人々を見るのが男女問わず大好きなんだ!」

と公言している。もう何度も日記をしたためている姿も見られているし、怖くはない。

「そうかそうかっ!嘉川っさあ、あんたの素敵な恋の話を聞かせて頂戴!」

と言う訳で、お酒を飲みつつ…嘉川の愛の軌跡を聞かせてもらうことにした。

「ほぉ~お相手は幼稚園の先生ね~。」

「俺の姉ちゃんバツイチで今、実家に戻ってきてるんだ。で、甥っ子はうちの近所の保育園に通ってて…俺が時々姉ちゃんの代わりにお迎えに行ってたんだ。そこで、俺は姉ちゃんの旦那だと思われてたみたいで、有紀に勘違いされてたみたいで…違いますと言って話し始めて、え~と…なんだか恥ずかしいなコレ…。」

「ふんふん、彼女さんのお名前は有紀ちゃんね、へぇ~。…結婚式の馴れ初めを語られる時間の予行練習だと思いなさいよ。これと同じ話を結婚式の司会をする人にも話して聞かせなきゃいけないのよ?」

「へ?なんで?」

「何で…じゃないよ?加瀨、結婚式で司会の人が2人の馴れ初めを紹介する時間があるでしょう?あれの原稿を書く為に打ち合わせの時に今見たいなクソノロケを延々と話さなきゃならないのよ?そのノロケ話を簡潔にまとめて司会進行役の方が紹介してくれるって訳。少なくとも最低1回はクソノロケを口に出さなきゃならないのよ?しかも私達、今すでに1回聞いちゃったから、式の本番ではもう一回同じ内容の話を聞かされる羽目になるね。」

加瀨は困ったような顔になって嘉川を見た。

「有紀ちゃんとの出会いは海に変更しろ。」

「出会いを捏造するなよ!」

嘉川がプリッと怒っている。

私は日記に萌えと尊い軌跡をしたためつつ、溜息をついた。

「しかしさ〜良かったよ。嘉川は女子とフラフラ〜フラフラ〜としか付き合ってないと思ってたからさ、崇高で尊い出会いから順調に愛を育んでいたなんて、あんたも輝き男子の仲間入りだよ。」

「輝き男子…。」

「そりゃどーも。あっ軟骨の唐揚げくださーい。」

嘉川はお礼をいいつつ、注文を頼んでいる。嘉川は日記をしたためている私を無視して加瀨の方へ顔を寄せた。

「でさ、拓海はどうなんよ?」

こらこらっ!自分が輝き男子の仲間入りをしたからと言って、悲恋に身を焦がす加瀨に話を聞くんじゃないよ!

私は日記を書く手を止めて加瀨に目を向けた。答えなくていいんだよ?そんな身を切られるような悲痛な愛の叫びを訴えなくていいんだからね?

加瀨はチラッと私の方を見た。い…色っぽい。

「報われないかな…俺の場合。」

き…きたーーっ!本人(嘉川)を前にしての告白に私は身を震わせた。つ、辛いけどこれぞ悲恋よっ!ああ、胸が動悸が…尊いわ。このまま萌えて死にそうだ…。

「何でよ、押せって…この間も諦めないとか言ってただろ?」

「押しても大丈夫かな?」

ん?と言って加瀨を見詰める嘉川…。あああっ眩しいっ!想われる男と想い焦がれる男…すれ違い、報われない恋っ…ああ、泣けるっ尊い!

必死に日記を書き殴る。萌えるっ尊い。恋する男子の、なんて儚くも美しい瞬間なんだろうか。くうぅぅ…お酒も進む!

空き皿を片付けに来た店員さんに声をかけた。

「すみません注文をっ梅酒炭酸割で!それと刺身八種盛りとタラバガニのクリームコロッケと鳥釜飯下さい!」

「……。」

尊い輝き男子’sが私を見詰める。何だよ?

「お前よく食うな…。」

「また肉付きが良くなるぞ…。」

お前らっ輝き男子のくせに、女子の心を貶める発言を綺麗な顔で言うんじゃねぇよ!

飲んだ…食った…。若干足元がフラフラするが心地よい。

「じゃあ~な!気を付けて帰れよ。」

会計を割り勘で済ませ、店の外へ出ると、嘉川が手を振りながら帰って行く。

ん?

私は隣に立つ加瀨を見上げた。

「あれ?加瀨いつも嘉川と一緒に帰ってなかったっけ?」

「ん…今日は相笠を送って行くよ。」

んん?どうしたんだろうか~?と、思いながらも結構です…と断ろうと口を開こうとした私のスマホが着信音を鳴らした。

もう誰だぁ~?…『貴明』上の兄の方だ。

「もしも~し。なぁに?貴にぃ~。」

『千夏、明日は喜代さんと母さんが10時に迎えに行くからな?』

「ふぇ?何で喜代さんも?」

『お前…酔ってるのか?今どこだ?迎えに行く。』

もぅ~~また束縛夫予備軍の動きをしようとするぅ~。

「大丈夫だよぉ~、平気平気。あ、友達と一緒だからぁ…。」

『友達?女の子か?まさか男友…。』

「じゃあね,明日ね。」

ピシャンとスマホを切ると、おい…と低い声で加瀨から呼びかけられた。顔を上げると加瀨が怖い顔をして私を見下ろしている。

「今の誰?」

あれぇ??何で怒っているのかなぁ~?


××月××日(土)

嘉川から愛の軌跡を聞き出せた。やっぱり愛を語る調べは聞いていると自然と胸が弾む。尊過ぎて体の震えが止まらない。次は有紀ちゃんサイドからの軌跡を聞いてみたい。有紀ちゃんと会わせろ!と嘉川に詰め寄っておいた。

※今日頂いたタラバガニのクリームコロッケは美味だった。『居酒屋八方美人』また食べたい、憶えておこう。

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