イケメンの恋愛観察日記

そう私は血族的には天涯孤独だ。現に浮気をし若い女と逃げ出した父とは連絡が取れない。

そう思っていたのだが、一人暮らしを始めてやっとその生活に慣れてきた16歳の夏…

唯一の肉親だと思っていた父の実家のおばあちゃんに夏休みに会いに行く、と連絡を取ると衝撃の言葉を投げかけられた。

「千夏ちゃんね…こっちに来たら気まずくない?だって文雄と美沙ちゃんと会うでしょ?だからあんたはこっちに来ないほうがいいよ?」

文雄とは父の名前だ。美沙ちゃん…もしかすると例の浮気相手の女の名前か?

こっちに…ということはずっと行方知れずだと思っていた父、文雄が実は実家に帰っていてその浮気相手と堂々と実家暮らしをしていたということだ。

「もうこっちには来ないようにしてね。あんたはお金持ちなんだし。」

祖母から告げられた言葉は私を拒絶するものだった。祖母は孫より息子を取った。いや…私なんて最初から孫だなんて思われていなかったに違いない。

あんたは私達とは違う…と言っているのが何よりの証拠ではないか。

切り捨てられた、と思った。

でも唯一の救いは血の繋がらない柘植親子が暇があれば私に会いに来てくれて、食事に私を誘い…4人で旅行も行き、遊びにも出かけ…天涯孤独の寂しさを全部拭い去ってくれたことだ。

まあ、父親側のことを思い出せば気も塞ぐが、柘植親子側は至って良好な関係で有難いことにお金に不十分することなく悠々自適に暮らせていたのだった。

はぁ…どうしようお見合いか。お母様は何としても私を自分の手元に置いておきたいらしい。兄達もそうだろう。だから自社の優秀なメンズを見繕い、私と結婚させて手元に囲い込みたいのだ。

愛されるのも辛いわね。

男女の恋バナの時に一度は言ってみたい台詞だけど、重い家族愛の時に使いたくない。

これ断ったら、またお兄様のどちらかが名乗りを挙げてくるのかな…。

実は元義理兄達も私の旦那候補だった…私がとても兄達とでは夫として見れないと断固拒否したのだ。

兄達は泣いていた。本気で泣いていた。申し訳ないけれど束縛夫まっしぐらな人達とは夫婦にはなりたくありません(本音)

私は溜息をつきながらスマホを制服のポケットにしまうと、加瀨のデスクまで戻った。加瀨と嘉川は2人で何か話している。ああ…美しい悲恋、尊い。

「土曜日、飲むか?嘉川も来るって。」

加瀨と嘉川はイケメンスマイルを私に向けている。

いつもはただのイケメンだな〜と思っていた彼らがいきなり恋に迷える尊い生き物に見える。

尊い生き物達よ、私に潤いを与えておくれ!

私は気持ちを切り替えた。嘉川っ!この私の沈み込んだ気持ちを奮い立たせるような恋バナを聞かせろよ、期待してるよっ。

ん?…っは⁈しまったっ!自分のくだらない見合い話のせいで営業部、野上課長と恋する乙女の川上さんとの甘酸っぱい恋のやり取りを見過ごしていたっ!

ギラッ…と目を見開き、営業部の中を見回すと…居たーっ! あああ!ちょっと何でまた甘酸っぱい2人の間に、栗本(営業部係長)のバカが一緒に居るんだよっ。お前は2人の邪魔するなよっどこかに行け!

「相笠、お前…また電話鳴ってるけど?」

ぬわっ…こんな忙しい時に誰だっ⁈

加瀨に言われて渋々、画面表示を見た。

『貴明』

見なかったことにした。すぐにまた電話が鳴る。

『貴司』

また見なかったことにした。

帰るまでに電話とメッセージが兄弟で連続入ってきたので、スマホの電源を落としておいた。

だから、あんた達(兄2人)は束縛夫の予備軍なんだってば…。

××月××日

野上課長を見詰める川上さんは少女のように可愛かった。2人は観葉植物の話をしていた、尊い。栗本は邪魔だ、引っ込んでろ。


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