僕を壊したのは君だから。
じりり、と土を踏む靴の音。


視線の先には見たことのない鋭さをもつ、有無を言わさない強い瞳。



「やめて、俺が行く」



適当な朝比奈くんに似合わない真剣な声。


まるで私を守るみたいで。



……だから、かっこよすぎるんだってば。弱ってる時にそういうの見せないでよ。



「朝比奈だって具合悪そうじゃん!宮岡さん落としちゃったら危ないから!」


「なめんな。死んでも離さねーよ」



……ぎゅっと力が加わる指先にドキドキした。



私を抱えたまま足早に歩き始めると、



「ねぇ宮岡さん。救急車って俺も付き添って乗れるのかな」



朝比奈くんは私の意識を確かめるためなのか、途切れることなく話しかけ続けている。



「初デートの交通手段が救急車ってすごくね?」



……ああもう本当に、なんの話をしてるの。


だけど……ありがとう。


声にならなくて、指先で朝比奈くんのシャツを握る。



「……大丈夫、俺がそばにいるからね」



そばに……。
どっと安心感に包まれて、指先から力が抜けていく。



すごく眠い。昨日遅くまで起きてたからかな。



「宮岡さん、しっかりして」



どんどん心配が強くなる声。


薄らいでいく視界。


朝比奈くんが必死で何か私に叫んでる。


……そんな取り乱した声、全然朝比奈くんらしくない。



そう思いながら、私は意識を手放した。



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