懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
それとは対照的に、里帆の鼓動は猛スピードで加速していった。
どうして彼がここに。
思いがけない人物の登場が、里帆から冷静さを奪う。
嘘。そんなはずは――。
そう打ち消してみても、目の前にいるのは亮介以外の何者でもなかった。
手足の長いすらっとした長身が、ドアの近くで立ち止まる。
薄まるはずもないのに、酸素濃度が低下した気がしてならない。呼吸は浅くなり、いくら吸っても酸素が肺に届かない。
「ここにいたのか」
心地のいいはずの低い声が、今は胸に鋭く突き刺さる。里帆はなにも返せないまま、握りしめた両手を胸の前で震わせた。
意思の強さが現れた切れ長の目も、細く通った鼻筋も半年前と変わらないが、その瞳にはかすかに疑念の色が滲んでいる。
でも、それも当然。彼の目には付き合っていた頃の里帆ではなく、愛よりもお金を取った女として映っているはずだから。
「里帆ちゃん、どうかしたのー?」