懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました


そこでようやく興味をもったらしく、隆一が顔を向ける。
だが、今から口にする名前が隆一の顔を曇らせるのは予想がついた。

覚悟をもってここへきたとはいえ、緊張せずにはいられない。なにしろ半年前に亮介と里帆を別れさせた張本人なのだから。
軽く深呼吸をして心を落ち着ける。


「立川里帆さんです」


隆一の眉がピクリと動いた。心なしか目が鋭くなる。


「……なにを寝ぼけたことを言ってる」
「寝ぼけてないし冗談でもありません」
「ばかばかしい。彼女ならとっくに別れただろう」


隆一は鼻を鳴らしてコーヒーカップを乱暴にテーブルへ置いた。


「昨日から一緒に暮らしています」
「……なに?」


ワントーン低い声がリビングに響く。部屋の温度が僅かに下がったのは気のせいか。
それでも怯むわけにはいかない。
< 161 / 277 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop