懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました


野崎は自分で自分の肩を抱き、警戒の色を滲ませる。
亮介が冷ややかな目を向けると、「そ、そんなわけないですよね! すみません、失礼いたしました!」と縮み上がった。


「川内にもきちっと指導させますので、どうかご理解をお願いいたします」


川内は、秘書の中で一番の古株の女性である。里帆も秘書になりたての頃は、彼女から基本的なことを教わっていた。
しかし、人選に厳しい成島が、どうして野崎のような男を選んだのだろうか。見た目はともかく、秘書に向いている資質があるようには見えない。


「野崎はこう見えても秘書検定の上級資格を取得しており、店舗ではお客様からの信頼も厚い男です」


そう言って成島は、お客様から寄せられた声をまとめた一覧を亮介のデスクに置いた。

そこには、〝素晴らしい接客だった〟〝どちらにするか迷っていたところ、彼が的確なアドバイスをしてくれた〟〝野崎さんがいるから買い物に行く〟といった好意的な意見ばかりが記載されている。

それだけをピックアップした可能性がないとも言いきれないが、野崎の放つ人懐こい雰囲気は、お客の支持を得やすいのかもしれない。
< 211 / 277 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop