懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
「……これですか? ノートです」
「それはわかってる。なにを書いてるんだ?」
「あ、これは、これまで私がお会いしたお取引様の情報と言いますか、容姿の特徴とかご挨拶したときのちょっとした会話とか、そういうのを忘れないように書き留めています」
もともと顔と名前を覚えるのが得意でないため、そうでもしないと忘れてしまう。
顔写真を撮って貼りつけたいところだが、普通に考えてそれは無理。そうなると自分なりに言葉で書き残しておくしかない。
次に会ったときにすぐに名前が出てくるように。ほんのひと言でもいいから、なにか気の利いた会話ができるように。
そんな願いを込めて書いている。
店舗に勤務していたときも手の平サイズのノートをポケットに忍ばせ、よく来店されるお客や会話をしたお客との記録を残していた。
亮介の秘書になってからはそれだけでなく、各スケジュールの注意点や必要な書類なども重要なポイントだ。
「ちょっと見せて」
「えっ」
戸惑っているうちに亮介はノートを取り上げた。
「へぇ、几帳面なんだな。字も綺麗だ」