懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました


それがわかっていたため、恋愛にのめり込むようなこともなかった。どこかでストッパーが働き、遊び感覚で楽しむ程度。一夜限りというのもあった。

本当の恋愛を知らないまま、父親の選んだ相手と結婚するのだろう。漠然とそう考えていた。

そんな亮介の前に現れたのが里帆だった。
彼女を気になり始めてから恋心に発展するまでまたたく間。彼女に吸い寄せられるようにして心を奪われた。

だが、それも束の間。結局、彼女もこれまでの女性たちと似たようなものだったらしい。
目の前に金を積まれ、亮介ではなくそちらを選んだ。

そんな苦い思いをしたというのに、亮介の心にはまだどこかで彼女を信じたい想いが少なからず存在している。

一緒に過ごした十ヶ月が、自分に向けられた彼女の想いが嘘だと思いたくない一心なのかもしれない。もしくは、この自分が騙されるわけがないと思いたいだけなのかもしれない。

本当に愚かだな。
自分で自分が憐れに思えた。


「そういえば社長、昨日の視察はいかがでしたか?」


成島が話題を変えた。
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