懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
二度目の別れ
午前七時半。キンと冷えた朝の空気は、やっぱりこの時期が一番澄んで感じる。海が近く温暖なここは、一番寒くなる二月でも雪が降らないそうだ。
「おはようございます」
里帆がみなみの裏口から入ると、すぐに香ばしい匂いに出迎えられる。
いい匂い。
思わず胸いっぱいに吸い込み、幸せな気分になる。
妊娠すると、いろいろな匂いを受け付けなくなる人が多いらしく、里帆もまさにそれに当てはまるのだが、なぜかパンの焼ける匂いだけは平気だ。とくに炊飯ジャーから立ち上る匂いがダメで、つわりの間は白米も受け付けなかった。
みなみのパンで食いつないでいたと言っても過言ではない。
「里帆ちゃん、おはよう」
幸則と一子が揃って顔を上げる。
「今日の体調はどう?」
「はい、大丈夫です」