懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
悪いのは全面的に里帆。掴まれた亮介の手を振りほどけず、言われるがまま車の助手席に乗り込んだ。
彼がスーツではなく普段着なのを見て、今日が日曜日だと思い出す。土日休みの仕事から離れ、曜日感覚が麻痺しているみたいだ。
亮介は黒いチェスターコートにテラコッタカラーのマフラーを巻いていた。
相変わらず素敵で、見るのもつらい。
「元気にしてたのか?」
「……はい」
ひどい終わりを与えたのは里帆なのに、体を気遣う言葉が耳に痛い。
「あれからずっとこの街に?」
コクンとうなずいた。言葉が喉のずっと奥に張りついている感覚。なにも発せない。
「聞きたいのはほかでもない」
核心を突く質問の前振りが、里帆に緊張を強いる。
「半年前、どうしてなにも言わずに俺の前から消えた?」