懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました

「いらっしゃいませー!」


オープンと同時に客が訪れはじめる。

海辺の小さな街は、ベーカリー工房みなみが店を構える海岸通りが一番栄えている。里帆がここへやって来た半年前は夏のため海水浴客も多く訪れていたが、今は地元の人がメイン。近辺にパン屋がないため、街の人たちに重宝されているようだ。

赤いとんがり屋根で木の温もりに溢れた店は、遠くからでも目を引く。道路を挟んだ砂浜からも、その三角屋根はよく見えた。

夫婦のほかには里帆ひとり。パートとして長く勤めていた女性が親の介護で働けなくなり、求人の貼り紙を出したその日のうちに里帆が飛び込むというグッドタイミングだった。

それなのに働きはじめて三ヶ月で妊娠。辞めなくちゃならないかも……と不安に襲われる里帆だったが、妊娠を打ち明けたときに心配する必要はないと励ましてくれたのは、ほかでもなくふたりだった。

大柄で恰幅のある幸則と、リスのようにかわいらしい顔立ちをした小柄な一子。でこぼこに見えるふたりは、高校時代の同級生カップル。三十一歳のひとり息子は、都内にある食品メーカーに勤めているため離れて暮らしている。
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