たとえば、こんな人生も
がちゃりとドアが開く音が微かに聞こえて

ドアを開けて覗いてみれば
玄関にいつきさんの姿


「おかえりなさい」


駆け寄って、出迎えれば


「……。ただいま」

「?」

「いや、普段家にひとりだったから
なんか実家を思い出して」


声が返って来るまでの
不自然な間に首を傾げれば
いつきさんは笑って言う


「懐かしくて
いいね。帰ったら誰かがいるのって」

「…」

「ひなたちゃん、ご飯食べた?」

「食べてないです」

「昨日から何も食べてないでしょ?
おなか、空かない?」

「……あんまり。食べ物の味もしないから」


塗り薬の他に飲み薬も出されたから

何でもいいから胃に入れて
飲まなきゃいけないけど

どうしても食欲が湧かなくて


「好きな食べ物とか、食べられるものとかない?」

「好きな、食べ物……」



「……さゆ姉さんの作ったオムライス」



「オムライスか
うん、じゃあ作ってみる」

「え?」


ぽつりと答えれば、いつきさんは頷いて
そのままキッチンへ向かう


「今日は俺ので我慢してね
後でさゆさんに作り方聞いておくから」
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