【現代異類婚姻譚】約束の花嫁 ~イケメン社長と千年の恋~
――夕焼けが沈む……何て綺麗。
車窓から夕焼けの残光を眺めながら百合はうっとりと息を吐いた。
今日は土曜日。タクシーで鬼嶋と暮らす家に戻る途中だった。
――びっくりするかな、鬼嶋さん……。
何故だか急に鬼嶋に会いたくなり、実家での用事を早めに切り上げ、新鮮な夏野菜を手土産にいそいそと帰ってきてしまったのだ。
鬼嶋と初めて結ばれた夜から一か月が経とうとしてた。
あれから何度身体を重ねても鬼嶋は冷めるどころか、ますます貪欲に百合を求めるようになっていた。
時おり、百合が夜中に目を覚ますと傍らで鬼嶋が眠らずに起きていることがある。
そういう時、例外なく鬼嶋はどこか不安そうな――昼間見せることのない、寂し気な目をしているのだった。
穏やかで幸せな生活の中、何が彼を不安にさせているのか……。
分からないながらも、百合は何とかして鬼嶋の不安を取り除きたいと思っていた。
タクシーを降りると、辺りはすでに暗闇に包まれていた。
夏の夕暮れ時の山里はひぐらしの澄んだ鳴き声が降るようにこだましている。
――今日は、夏野菜で料理を作ろう。鬼嶋さん、喜んでくれるかな……。
早く顔が見たくて、上擦ったような気持ちのまま、アプローチを駆け抜けドアに手をかける。
「……? お客?」
たたきに並んだ何足もの大きな男物の靴に目が釘付けになる。
今日、百合が帰らないことを知っていて友人でも招いているのだろうか。
奥からは賑やかな話声まで聞こえてくる。
――しまったなぁ。連絡すればよかったかな……?
ほんの少し後悔しながら、そっと靴を脱いで家の中に入りリビングにむかって歩いていく。
リビングへ続くドアがほんの少し開いていてそこから大きな笑い声が漏れていた。
電気をつけていないらしく、光は一切漏れてこない。
――何だか、変。 明かりもつけないなんて……。
まずは少し様子を見ようと何気なく百合はドアの隙間から中を覗いてみた。
とうに日が暮れた部屋の中は真っ暗になっていてもおかしくないのに、ところどころにぼうっと揺らめく火のような灯りが見える。
はじめはキャンドルか灯りか何かと思ったけれど、百合はすぐにそれが間違いであることに気づいた。
中空に浮かぶ青緑色の炎……それは。
火の玉……鬼火……。
祖母が語ってくれた昔語りが急に脳裏によみがえってくる。
――何? 何かの見間違い……?
ざわざわと背筋に悪寒が走るのを感じながら、百合は暗闇に目を凝らした。
部屋の中には数人の男たちが集っていおり、その中にはもちろん鬼嶋の姿があった。
鬼嶋の姿を一目見て、百合は息をのんだ。
もともと、色素の薄い茶髪が、光の加減か今はほとんど金色に見えた。
陰影の濃い闇の中、薄笑いを浮かべた横顔が、百合にはいつもとは別人のように冷たく感じられた。
「この度の嫁取りの件、誠におめでたいことで……」
大柄の中年男性が鬼嶋に酒を注ぎながら祝いの言葉を述べているのが耳に入った。
「おお、数百年の時を経て、あの一族の娘を嫁に迎えるとは……。 まさに大願成就」
「やはり人間どものこと、何代にもわたって約束を守り続けるのは到底無理なことでございますな」
――私たちの結婚の、こと……?
男たちが一体何を言っているのか理解できないままに百合は息を殺して宴の様子を見守った。
「――この数百年の間、俺は如月の一族から片時も目を離すことはなかった……」
手元の酒をグイっとあおってから、鬼嶋は口の端を弓なりに曲げて笑った。
「もう、あの娘を手放す気はない――何があろうと。あれは俺のものだ――」
鬼島の瞳が金色に輝いたその時、百合は初めてそれに気づいた。
淡い金色に光る髪の間から覗く禍々しい角。
――鬼……!
祖母に聞いた昔話の鬼が目の前に存在していた。
車窓から夕焼けの残光を眺めながら百合はうっとりと息を吐いた。
今日は土曜日。タクシーで鬼嶋と暮らす家に戻る途中だった。
――びっくりするかな、鬼嶋さん……。
何故だか急に鬼嶋に会いたくなり、実家での用事を早めに切り上げ、新鮮な夏野菜を手土産にいそいそと帰ってきてしまったのだ。
鬼嶋と初めて結ばれた夜から一か月が経とうとしてた。
あれから何度身体を重ねても鬼嶋は冷めるどころか、ますます貪欲に百合を求めるようになっていた。
時おり、百合が夜中に目を覚ますと傍らで鬼嶋が眠らずに起きていることがある。
そういう時、例外なく鬼嶋はどこか不安そうな――昼間見せることのない、寂し気な目をしているのだった。
穏やかで幸せな生活の中、何が彼を不安にさせているのか……。
分からないながらも、百合は何とかして鬼嶋の不安を取り除きたいと思っていた。
タクシーを降りると、辺りはすでに暗闇に包まれていた。
夏の夕暮れ時の山里はひぐらしの澄んだ鳴き声が降るようにこだましている。
――今日は、夏野菜で料理を作ろう。鬼嶋さん、喜んでくれるかな……。
早く顔が見たくて、上擦ったような気持ちのまま、アプローチを駆け抜けドアに手をかける。
「……? お客?」
たたきに並んだ何足もの大きな男物の靴に目が釘付けになる。
今日、百合が帰らないことを知っていて友人でも招いているのだろうか。
奥からは賑やかな話声まで聞こえてくる。
――しまったなぁ。連絡すればよかったかな……?
ほんの少し後悔しながら、そっと靴を脱いで家の中に入りリビングにむかって歩いていく。
リビングへ続くドアがほんの少し開いていてそこから大きな笑い声が漏れていた。
電気をつけていないらしく、光は一切漏れてこない。
――何だか、変。 明かりもつけないなんて……。
まずは少し様子を見ようと何気なく百合はドアの隙間から中を覗いてみた。
とうに日が暮れた部屋の中は真っ暗になっていてもおかしくないのに、ところどころにぼうっと揺らめく火のような灯りが見える。
はじめはキャンドルか灯りか何かと思ったけれど、百合はすぐにそれが間違いであることに気づいた。
中空に浮かぶ青緑色の炎……それは。
火の玉……鬼火……。
祖母が語ってくれた昔語りが急に脳裏によみがえってくる。
――何? 何かの見間違い……?
ざわざわと背筋に悪寒が走るのを感じながら、百合は暗闇に目を凝らした。
部屋の中には数人の男たちが集っていおり、その中にはもちろん鬼嶋の姿があった。
鬼嶋の姿を一目見て、百合は息をのんだ。
もともと、色素の薄い茶髪が、光の加減か今はほとんど金色に見えた。
陰影の濃い闇の中、薄笑いを浮かべた横顔が、百合にはいつもとは別人のように冷たく感じられた。
「この度の嫁取りの件、誠におめでたいことで……」
大柄の中年男性が鬼嶋に酒を注ぎながら祝いの言葉を述べているのが耳に入った。
「おお、数百年の時を経て、あの一族の娘を嫁に迎えるとは……。 まさに大願成就」
「やはり人間どものこと、何代にもわたって約束を守り続けるのは到底無理なことでございますな」
――私たちの結婚の、こと……?
男たちが一体何を言っているのか理解できないままに百合は息を殺して宴の様子を見守った。
「――この数百年の間、俺は如月の一族から片時も目を離すことはなかった……」
手元の酒をグイっとあおってから、鬼嶋は口の端を弓なりに曲げて笑った。
「もう、あの娘を手放す気はない――何があろうと。あれは俺のものだ――」
鬼島の瞳が金色に輝いたその時、百合は初めてそれに気づいた。
淡い金色に光る髪の間から覗く禍々しい角。
――鬼……!
祖母に聞いた昔話の鬼が目の前に存在していた。