【現代異類婚姻譚】約束の花嫁 ~イケメン社長と千年の恋~
少女は身を強張らせて、振り返りたいという衝動を辛うじて抑えた。
里の者ではないことは直ぐに分かった。それほど、男の醸し出す雰囲気は異質なものだった。
旅人だろうか、それとも……。
言われるままにきゅっと口をつぐむと少女は泉に映る影のおぼろげな輪郭を見つめて待った。
「おぬし、先ほど『水さえあれば』というておったな」
少女が素直に言うことを聞いたため安心したのか、声の主は若干口調をやわらげて問いかけた。
「はい……。田畑を潤す水さえあれば、皆が助かると申しました」
「では、その水を都合してやると言ったら、どうする……?」
びくり、と少女の肩が震えた。
人間には到底できないようなことを言ってのけるその男の正体に聡い少女は薄々気づきかけていた。
あやかし……?
時に神として祭られ、時に邪として恐れられる人智を越えた力を持った存在。
「……娘、こちらを向け」
心臓がバクバクと音を立てているのが分かる。
恐る恐る振り向いた少女の目に映ったのは。
ゆるく波打った薄茶色の長い髪。
六尺は優に超えているであろう、長身の大男がそびえるようにそこに立っていた。
腰までの長い髪を結いもせずに振り乱し、黒い着物の裾をからげた男の姿は娘には異様に思えた。
思わず、後ずさりをしようとした娘の腕を男は俊敏な動作で捉えた。
「はなして……!」
「ばか、水の中に落ちる気か!」
そう言われて娘はハッとした。
振り向けば、もう水辺の際まで後がない。
すんでのところで頭から泉の中に飛び込んでしまうところだった。
「……ありがとう、ございます」
「気をつけろ。小さな泉に見えてもここはかなり深い」
腕を捉えられ、男の胸に引き寄せられた娘が恐る恐る顔を上げた。
涼し気な一対の瞳がじっとこちらを見下ろしている。
瞬きもせず真剣に娘の瞳を覗き込んでいる男の瞳はなぜか淡く金色に光っているように見える。
『なんてふしぎな……』
思わず男の瞳に宿る不可思議な光に見惚れてそうになった娘だったが、身体に回された男の腕の熱さにふと我に返った。
見も知らぬ男に抱きかかえられ、互いの息遣いさえ聞こえるような距離にいることに気づき娘は頬を紅く染めた。
「もう、大丈夫ですから……お放しください」
顔を伏せ、小さな両手で男の胸を押しのけながら、娘はか細い声で懇願するように言った。
「……ああ、すまん。怯えさせるつもりはなかった」
抱きすくめていた両腕をゆるめ、男は少女を解放した。
「だが、まだ答えを聞いておらんな」
腰を折り、少女と目線を合わせてから男は笑みを浮かべて言った。
「え……」
「先ほど言っただろう。『水を都合してやると言ったら、どうする』と」
里の者ではないことは直ぐに分かった。それほど、男の醸し出す雰囲気は異質なものだった。
旅人だろうか、それとも……。
言われるままにきゅっと口をつぐむと少女は泉に映る影のおぼろげな輪郭を見つめて待った。
「おぬし、先ほど『水さえあれば』というておったな」
少女が素直に言うことを聞いたため安心したのか、声の主は若干口調をやわらげて問いかけた。
「はい……。田畑を潤す水さえあれば、皆が助かると申しました」
「では、その水を都合してやると言ったら、どうする……?」
びくり、と少女の肩が震えた。
人間には到底できないようなことを言ってのけるその男の正体に聡い少女は薄々気づきかけていた。
あやかし……?
時に神として祭られ、時に邪として恐れられる人智を越えた力を持った存在。
「……娘、こちらを向け」
心臓がバクバクと音を立てているのが分かる。
恐る恐る振り向いた少女の目に映ったのは。
ゆるく波打った薄茶色の長い髪。
六尺は優に超えているであろう、長身の大男がそびえるようにそこに立っていた。
腰までの長い髪を結いもせずに振り乱し、黒い着物の裾をからげた男の姿は娘には異様に思えた。
思わず、後ずさりをしようとした娘の腕を男は俊敏な動作で捉えた。
「はなして……!」
「ばか、水の中に落ちる気か!」
そう言われて娘はハッとした。
振り向けば、もう水辺の際まで後がない。
すんでのところで頭から泉の中に飛び込んでしまうところだった。
「……ありがとう、ございます」
「気をつけろ。小さな泉に見えてもここはかなり深い」
腕を捉えられ、男の胸に引き寄せられた娘が恐る恐る顔を上げた。
涼し気な一対の瞳がじっとこちらを見下ろしている。
瞬きもせず真剣に娘の瞳を覗き込んでいる男の瞳はなぜか淡く金色に光っているように見える。
『なんてふしぎな……』
思わず男の瞳に宿る不可思議な光に見惚れてそうになった娘だったが、身体に回された男の腕の熱さにふと我に返った。
見も知らぬ男に抱きかかえられ、互いの息遣いさえ聞こえるような距離にいることに気づき娘は頬を紅く染めた。
「もう、大丈夫ですから……お放しください」
顔を伏せ、小さな両手で男の胸を押しのけながら、娘はか細い声で懇願するように言った。
「……ああ、すまん。怯えさせるつもりはなかった」
抱きすくめていた両腕をゆるめ、男は少女を解放した。
「だが、まだ答えを聞いておらんな」
腰を折り、少女と目線を合わせてから男は笑みを浮かべて言った。
「え……」
「先ほど言っただろう。『水を都合してやると言ったら、どうする』と」