【現代異類婚姻譚】約束の花嫁 ~イケメン社長と千年の恋~
京の都にほど近い山中に棲み、人々に畏れられていた鬼の一群があった。
超常的な力をもち、異形のものとして恐れられた者たちは、人間たちの世界の外側でひっそりと暮らしていた。
人の世が荒れ、バランスが崩れた時――荒くれ者の仲間たちが乱れた世に現れ力を振るうようになっていった。
都を脅かし、略奪を繰り返す生活に虚しさを覚えた星熊は、一人、鬼の棲みかを後にした。
修験者の形をして旅に出た星熊が見た人の世は、鬼たちの世界と何ら変わらない――争いと、憎しみに満ちていた。
美しい川が流れる山間の小さな村で出会った女をいつしか恋い慕うようになった。
歌声の美しい優しい女だった。
星熊は旅をやめ、女と共に人間の村に暮らすようになった。
二人で過した冬、春、夏……これまで過ごした気の遠くなるような歳月の中でひときわ美しい時間だった。
秋雨が続いたある日、村より上流にある地域が洪水に襲われた。
鬼の力で星熊は村を洪水から救ったが、川の様子を窺っていた村人に正体を知られてしまった。
その年の冬、からりと晴れたある日。山仕事に出た星熊は二度と村へ戻ることはできなかった。
村人たちが星熊が村で暮らすことを拒んだからだった。
正体が鬼だと知れた途端、村人たちの星熊への態度はガラリと変わってしまった。
星熊は村人たちと約束をした。
自分は二度と村へは行かない。その代わり。
村に残してゆく妻のことを頼む――そう、星熊は村人たちに懇願した。
二度と逢うことはない妻の面影を胸に抱いたまま、星熊は再び旅に出たのだった。
村を後にした星熊はひたすら東を目指して旅をつづけた。
都から遥か東の山には女と過ごしたあの春に村を訪れた旧い友――キジマが暮らす山がある。
「そして……鬼嶋の世話もあって、俺はこの近くの山で暮らすようになった」
淡々と話を続ける星熊の浮かべた表情は苦いものだった。
「鬼嶋が人間の女を見染めたと知った時……俺は最初反対した」
「私の、ご先祖のこと……ですよね」
「ああ。……本当に人間の女と添い遂げたいのなら、里を出て二人で暮らせ、とも言ったな」
遠い昔に想いを馳せる星熊の瞳は、どこか遠くを見つめているように見えた。
「……どうにかして、幸せになってほしかったが、それも叶わなかった。……だが」
ゆっくりと視線を百合に戻すと、星熊はテーブルの上にぐい、身を乗り出した。
「これだけは、わかってやってくれ。あいつは、アンタのことをずっと待っていたんだ。……約束を守りながら、何百年も。愛した娘の生まれ変わりが再びあの家に生まれるのを」
「約束を守るって……炒った豆から芽が出たら、っていう……。その約束のこと?」
単なる昔話だと思っていたことが、まさか……?
本当にあった出来事だと、そんなことがあり得るのだろうか……。
混乱を覚えながらも百合は星熊の目を見ながら、じっと彼の答えを待った。
「……そうだ。鬼嶋はずっと如月家の約束を守り続けてきたんだ」
超常的な力をもち、異形のものとして恐れられた者たちは、人間たちの世界の外側でひっそりと暮らしていた。
人の世が荒れ、バランスが崩れた時――荒くれ者の仲間たちが乱れた世に現れ力を振るうようになっていった。
都を脅かし、略奪を繰り返す生活に虚しさを覚えた星熊は、一人、鬼の棲みかを後にした。
修験者の形をして旅に出た星熊が見た人の世は、鬼たちの世界と何ら変わらない――争いと、憎しみに満ちていた。
美しい川が流れる山間の小さな村で出会った女をいつしか恋い慕うようになった。
歌声の美しい優しい女だった。
星熊は旅をやめ、女と共に人間の村に暮らすようになった。
二人で過した冬、春、夏……これまで過ごした気の遠くなるような歳月の中でひときわ美しい時間だった。
秋雨が続いたある日、村より上流にある地域が洪水に襲われた。
鬼の力で星熊は村を洪水から救ったが、川の様子を窺っていた村人に正体を知られてしまった。
その年の冬、からりと晴れたある日。山仕事に出た星熊は二度と村へ戻ることはできなかった。
村人たちが星熊が村で暮らすことを拒んだからだった。
正体が鬼だと知れた途端、村人たちの星熊への態度はガラリと変わってしまった。
星熊は村人たちと約束をした。
自分は二度と村へは行かない。その代わり。
村に残してゆく妻のことを頼む――そう、星熊は村人たちに懇願した。
二度と逢うことはない妻の面影を胸に抱いたまま、星熊は再び旅に出たのだった。
村を後にした星熊はひたすら東を目指して旅をつづけた。
都から遥か東の山には女と過ごしたあの春に村を訪れた旧い友――キジマが暮らす山がある。
「そして……鬼嶋の世話もあって、俺はこの近くの山で暮らすようになった」
淡々と話を続ける星熊の浮かべた表情は苦いものだった。
「鬼嶋が人間の女を見染めたと知った時……俺は最初反対した」
「私の、ご先祖のこと……ですよね」
「ああ。……本当に人間の女と添い遂げたいのなら、里を出て二人で暮らせ、とも言ったな」
遠い昔に想いを馳せる星熊の瞳は、どこか遠くを見つめているように見えた。
「……どうにかして、幸せになってほしかったが、それも叶わなかった。……だが」
ゆっくりと視線を百合に戻すと、星熊はテーブルの上にぐい、身を乗り出した。
「これだけは、わかってやってくれ。あいつは、アンタのことをずっと待っていたんだ。……約束を守りながら、何百年も。愛した娘の生まれ変わりが再びあの家に生まれるのを」
「約束を守るって……炒った豆から芽が出たら、っていう……。その約束のこと?」
単なる昔話だと思っていたことが、まさか……?
本当にあった出来事だと、そんなことがあり得るのだろうか……。
混乱を覚えながらも百合は星熊の目を見ながら、じっと彼の答えを待った。
「……そうだ。鬼嶋はずっと如月家の約束を守り続けてきたんだ」