初めての to be continued…
1. 芳子
「どうぞ」
「……お邪魔します」
普通の、一人暮らし用の1DK。とはいえ、ダイニングと呼べるような広さではなく、冷蔵庫と食器棚を置けばもういっぱいだ。
奥にある部屋は、ちょっと広め。
雄大は真ん中にある座椅子を指差した。
「そこ座って、楽にしててください。すぐできますから」
「うん」

土曜の夜。
今日は、雄大がご飯を作ってくれると言うので、雄大の家にお邪魔している。

「芳子さん、コート」
「えっ、コート?」
雄大が、ハンガーを持って、もう片方の手を私に差し出す。
「着たままだと肩凝りますよ」
「あっ、コートね。うん、ありがと」
私のコートをラックにかけて、雄大はキッチンに立つ。
思ってたよりも、背中が広いんだな……と思いながら、声をかける。
「なにか手伝う?」
「いや、大丈夫ですよ。あ、なんか飲みますか?ビール?」
「うん、そうだね。雄大も飲むでしょ?」
「そうですね、飲んじゃおっかな」
言いながら、来る途中で私が買ってきた缶ビールを2本出す。1本は自分、1本は私にくれて、残りは冷蔵庫にしまった。
大きめの座椅子は、座るとキッチンに背を向けることになるので、ちょっと斜めに座って、思ってたより広い背中を見ながら缶ビールを飲む。

ここに来たのは初めてだ。
雄大は大学の後輩で、在学中に会うのは大体学校だったし、卒業して同じ会社に就職したので、今は会社で会う。
飲み会の後、酔っ払った私を雄大が送ってくれて、帰れない時間になってしまい、雄大がそのまま家で寝ていったことはあるけど、逆のことはなかった。

座ったまま、軽く部屋を見回してみる。
大きな本棚が1つ、テレビ、テーブル、ベッド。こげ茶かそれに近い色を選んでいるらしく、落ち着いた感じ。
私が座っている座椅子は濃紺で、座り心地がいい。背もたれが高くて、私が頭まで寄りかかれるから、私より大分大きい雄大も、リラックスできそうだ。
座椅子は、当たり前だけどこの部屋に一つだけ。
私が座ってていいのかな、と思いながら雄大の方を見ると、雄大と目が合った。
「テレビ、見てていいですよ」
「……うん」
二カッと笑う雄大は、また私に背を向けて、フライパンでなにかをジュージューいわせている。
広い背中は、やせ型なのにしっかりしていて、頼りがいがありそうだ。

私は、雄大の背中をあまり見たことはなかった。なぜなら、彼は常に私の方を向いていたから……ということに、気付かされたのは最近だ。
背中だけじゃない。考えたら、付き合いは長いけど、雄大のことは知っているようで知らない。
その頼りがいがありそうな背中は、後輩を中心に随分人気があるらしい、と知ったのも最近のこと。


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