勇者の子は沈黙したい
そもそも、と、ゼインは心の声が漏れそうになった。
そもそもこの勇者の息子、レオ・アルバートはさっきから何をしているんだ?

ゼインが森の奥を歩み進めると、白を基調とした巨大な屋敷が見えてきて、ここが勇者の息子の居場所であるとすぐに分かった。
しかし、いかんせん広大な土地、それに高い高い塀が立ち上り、とてもじゃないが勇者の息子は愚か、屋敷の住人に出会える確率は低いと思っていた。
ゼインは見た目よりもはるかに身体能力が高く、塀を登ることは容易かったが、頂上から屋敷を眺めても広がるのは大きな庭。
季節ごとの様々な草花が咲き誇り、6段にも連なる巨大な噴水があり、細い一本の道の奥にやっと屋敷が立ちそびえていた。
これは、侵入するのも一苦労だ、とゼインは心の中で舌打ちをし、とりあえず塀を降りようと思い目を下にした。
そこに、彼はいたのだ。
レオ・アルバートがいたのだ。

塀の真下にいた人物が勇者の息子であることはすぐに分かった。
眩しい金髪、青い瞳、整った顔立ち、華奢な体格に隠された鍛え上げられた身体の持ち主。
勇者の息子、レオ・アルバートに違いなかった。

しかし、しかしだ。
いったいこの世の誰が、この広大な屋敷の広大な庭の中で、塀に最も近い隅っこで男が足を抱えて丸まっているなど想像するだろうか。
勇者の息子とあろう男が、膝を抱え自分の真下にしゃがんでようとは誰も想像できまい。


こいつ、本当に勇者の息子なのか?


侵入者を無視し、また下を向くレオを眺めながら、発する言葉と真逆のことをゼインは考えるのであった。

< 3 / 6 >

この作品をシェア

pagetop