勇者の子は沈黙したい
レオ・アルバートはラスカー ・アルバートの息子である。
ラスカー・アルバートはご存知であろうか。
話は20年前に遡る。
ラスカー・アルバートは、世界を滅ぼそうとする大災に打ち勝ったのだ。
大災--その名も魔王。
人間界を支配しようと魔物を操り悲劇を与える、諸悪の根源。
それを倒したのが彼だった。
圧倒的な強さを誇り、魔王を封印することに成功した。
それが、20年前のお話。
そして今、時が経ち、魔王の封印は解かれた。
やはり魔王を消滅することでしか平和は訪れないと証明された瞬間であった。

「偉大なるラスカー・アルバート!目が眩むほど眩しい金髪に、真実を捉える真っ青な瞳!端正な顔立ち!!そして何より、あの強さ!魔王を一撃で封印したんだ、みんなの憧れの勇者さ」
「そうか、ならその勇者に会いに行けばいい。俺じゃなくてな」
「お前は勇者の息子だろ?なんだそのやる気のない目…。魔王に一撃でやられそうな気怠さは」
「年上に対する口の聞き方には気を付けろよ」

顔以外何も似てねえ、というゼインの言葉にレオはシカトを決め込んだ。

「それに、親のことならレオが一番分かるだろ。勇者はもうこの世にいない。俺は勇者には会えない」
「気安く呼ぶな」
「だから俺はレオに会いに来たんだ。どんな人が勇者の息子なんだろうって期待を寄せて…」

ゼインはそこまでいうと、塀の上からレオを見下ろした。その目には何も映っていなかった。

「期待外れだったろ。なら帰れ」
「ほんとにな。俺をチビ呼ばわりするしな」

ゼインのその言葉を聞くと、レオ・アルバートは広大な庭の一角の、塀に最も近い、花も草も生えてない、隅っこであるその場にしゃがみ込み、目をうつ伏せ、最初の体勢に戻った。

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