リペイントオレンジ🍊


「だから、みんなには自分の命を自分で守ることができる人間になって欲しい。そのためにも、自分の命を自分で守る方法の一つとして、災害時こそ「落ち着いて行動する」ということを忘れないで下さい」


マイクや、メガホンを使わなくても、よく響く綺麗な声はスーッと胸の奥深くまで入って来て、じんわり溶けていく。

真剣な顔で言葉を紡いだ菅野さんに、思わず見惚れてしまいそうな自分に気づいて、私は慌てて視線を子どもたちへと移した。


子供たちはと言えば、みんな最初から最後まで菅野さんの話に静かに耳を傾けている。


中でも、いつもより真剣な蒼介くんの顔が印象的で、蒼介くんもどこか胸に響くものがあったのかな?と思うと、恐怖に耐えながらも菅野さんに講話を依頼して良かったなーと、何だか報われた気がした。


「私からは以上です。ご清聴ありがとうございました」


講話が終わると、一斉に拍手が沸き起こる。
一礼して、帽子を深く被り直した菅野さんは、消防士としては完璧なように思えた。


……仕事してる姿がカッコイイなんて、ちょっとずるい。
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