秘密の恋はアトリエで(前編) 続・二度目のキスは蜂蜜のように甘く蕩けて
「秋庭先生の代わりで来ました沢渡です。えーと、今日は自分の手のデッサンをします。じゃあ、各自、準備して」と、靱也はすこしうつむきかげんのまま言い、目の上にかかっていた前髪をかきあげた。

 そのしぐさを目にしただけで、数人の女子がため息を漏らす。

 夏瑛でさえ、教壇に立つ靭也にはやはり見惚れてしまう。
 
 絵を描く時間を割くのを惜しがって、あまり買い物に出かけない靭也は、とくに服装にこだわっていない。

 今日もストライプのシャツに黒のジーパンといった、取り立てて目立つような服装ではなかった。

 それでも、無造作に折り上げたシャツのカフスから見える少し骨ばった手首や、開いた襟元からのぞく細い首筋が独特の色気をかもし出し、いやでも、女子たちの目を釘付けにしてしまうのだ。
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