1日限定両想い
「なぁ。先生って言うのやめへんか。」
『え?』
「もう先生やないし。」
『そっか…そうですよね。』
ホテルへと向かう車内で、懐かしい雰囲気にやけに戸惑った。
車内に2人でいるところを見られたのが、俺たちが離れるきっかけだった。
『じゃあなんて呼ぼうかな。』
真剣に考え出した姿に、ふと新田が重なる。
最後まで俺を先生と呼んでくれた新田は、1人で東京へ帰ったのだろうか。
「新田は。」
『え?』
「新田とは、その…」
『青波さんが言ってくれたの。今度こそ菊池先生を失うなって。』
暗くなった街並みを眺めながら、須崎は新田と話したことを教えてくれた。
1人大阪を離れた新田に、俺は何をどう伝えればいいのだろう。
これだけの想いを、どう返していけばいいのだろう。
『勝手かもしれないけど…幸せにならなきゃいけないって思うんです。』
「うん。」
『私が幸せでいることが、青波さんにできるたったひとつのことなんだって。エゴでしかないかもしれないけど…。』
外を眺める横顔は見えない。
どんな想いでその関係を断ち切ってきたのか、俺は何も知らない。