愛は惜しみなく与う④

それだけ言い残して男は去った

まじで口がポカーンと空いたままになってたと思う。
そしてその数秒後

加藤さんと同じ空気を吸うのが恥ずかしくなった


最低な人だとわかってた。
でも、この瞬間まで、この人と一緒にいる自分を客観視できていなかった

自暴自棄になってたとはいえ
恥ずかしい


その日は朝方に家に帰った

そして真っ先に


引っ越した時の残りの荷物を探しに、蔵へ行った。残ってるはずだから

なんかわかんねぇけど

昨日の奴の言葉が響いたんだ
何か一つでいい。自分の支えを作れと。

初めてなんだ

何かに縋ってもいいって思ったのは
たった一言だけど。昨日のやつが誰か知らないけど。
それでも助けてくれたのは間違い無いし、なにより強かった


自分の支え…
自分の中で強く思え


そして俺は、荷物の中の1つの箱を開けた




『お母さん…』


あの日以来一度も見なかった、大好きなお母さんの写真
2人で撮った最後の写真

生きることに希望も持てず、悪いことに手を染めても心も動かなかった

なのに
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