イルカ、恋うた
代わりに抱きしめられ、耳元で何度も「うん」と頷く。


立てた小指は冷えてたけど、それでもよかった。


俺も精一杯、彼にしがみついた。


「世間的には変わってしまう。だが、俺達は親子だ。
ずっとずっと、お前は俺の大切な息子。
ふがいない俺を許してくれ。愛しているよ」


一台の車が目の前に止まると、夫婦が降りた。


駆け寄ろうとした奥さんを、旦那さんが止めた。


俺は父から離れ、彼の顔を見ないようにして、彼等のもとに走った。


背中に温かい視線が刺さる。


「もう、いいのかい?」


旦那さんがすまなそうに言った。


「ええ。それより、おじさん達の方こそ、いいんですか?…本当に僕なんか引き取って…」


これは最後の賭けだった。


俺は小さな期待を抱いてた。


断られたら、父のもとに戻るしかないから。


「私達は大歓迎よ。あなたのような、活発な少年が来てくれるなら、私達…夫婦も変わるわ」


活発?一度しか会ってないのに…


何気ないお世辞なのに、気に入らなかった。


「じゃあ、行こう」


父に一礼し、おじさんは俺の肩を抱き、車まで導く。


後部座席に、おばさんと座った。

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