イルカ、恋うた
美月を送り届けた後、ようやく木田と連絡が取れた。


呼び出し音が止む頃には、俺は激憤してた。


「木田!お前、何で美月のとこに行った!?」


思わず、彼女を名前で呼んでた。


『美月?……ああ、お前らそんな関係だったのか?』


「佐伯検事正のことなら、検察庁でも桜井検事でも、何なら本人とコンタクトを取ったらどうだ!?」


『それができたら苦労しねーよッ。今更、何を分かりきったことを!警察の同じで、上層部が隠蔽に走る。マスコミ関係者なんぞが、検事正に会えるかよ!』


「だから、娘かよ!?余計なことしやがって!何も知らなかった娘に、父親に関する不安を与えるだけだ!」


『私情はさんでんじゃねぇよ!真実明らかにしなきゃ、組織潰せるなら、何でもありってこと、認めることになんだろうが!』


それは確かにそうだった。


木田は電話を切った。

俺はその携帯を握りしめてた。


――真実は大事だが、彼女は傷つけたくない。


これも立派な矛盾だ。



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