イルカ、恋うた
「なぜですか?」


「何を計画しているのか、想像してみた時、もしかしたら、首領を填めようとしているのではないかと思ったんです。

そしたら、無意識に、それまでの彼らの勝手な振る舞いに対する怒りが消えたんです」


聞けば、伊藤弁護士も佐伯検事正と同じ考えを持っていたという。


「弁護士として、少年少女に接する機会があります。

売春だったり、傷害だったり、盗難だったり。そりゃ、全てが薬物のせいではないですが、少なくなかった。

実際、佐伯と同じく、中毒の子達にも会ったことがあります。数えきれないくらいね……」


思い出したのか、伊藤弁護士は辛そうに長いため息を吐く。


しばらく沈黙が流れ、彼はまた続ける。


「多くの弁護士が検察官から貰わなきゃいけない、面会キップ、具体的指定書の制度に憤慨し、訴えます。それがないと、接見禁止中は、弁護士は会わせてもらえないんですから」


だが、実際に弁護士にそんな義務はない。

だけど、現状は仕方なく従ってしまう場合も多く、その時の伊藤弁護士もそうだった。


「弁護士だって人間ですから、腹が立ったり、焦りだってある。でも、私にはありませんでした」


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