イルカ、恋うた
まさに、法曹界の人間の家だな、と岩居さんが言った。


門の前に横付けした二台の車。


前のタクシーから美月が降りる。


こちらに一瞥もくれず、入っていった。


「セキュリティーが万全らしいから、彼女が出かける時が中心でいいみたいよ。普段は近くの署から派遣するから、案外楽かなぁ」


岩居さんが気楽そうに微笑んだ。


次にタクシーから降りた桜井検事が、こちら側へ歩いてきた。


「あの、少し上がって行きません?お二人もお疲れでしょう。それに、僕も検事です。担当じゃないとしても、この事件のことを少し話したいです」


「あ、いえ。僕達、警備だけです。捜査関係は本庁の役目ですから、お話はそちらでお願いします」


岩居さんは検事の前だからか、顔を締まらせていた。


「あ、でも、お茶だけでも。きっと彼女も用意しています。何と言っても、僕の恋人…いえ、妻になる人を守ってくれるんですから、僕としてもお礼が言いたいですし」


話してたのは、岩居さんだったのに、この時は明らかに俺しか見てない。


妻になる―…


当たり前だ。なのに―

改めて、衝撃を受けてる自分がいた。


< 33 / 224 >

この作品をシェア

pagetop