イルカ、恋うた
なんでも、佐伯検事のお気に入りの紳士服専門のブランド店があるらしい。


彼にカーディガンを持っていくはずが、その愛用のカーディガンは、穴が空いてしまっていたらしい。


代わりのものを買って、今日あげたいんだそうだ。


「……あの。ごめんなさい……こんな、タクシーみたいな使い方」


「いいの、いいの。身辺警護が担当だし、佐伯検事正の娘さんなんだから、どんと構えて」


美月はそんな性格じゃないと思うけど。


「なぁ。竜介」


「はぁ、ええ……ってか、早く行きましょ」


岩居さんに運転を促すと、不意に横から視線を感じた。


不安げな瞳がこちらを見てた。


「ごめんなさい…」


「え、いや。だから、大丈夫ですって」


「無愛想なんだよぅ」と、岩居さんが怒鳴った。


そんなこと言われても……


早く行きましょ、ってセリフも悪かったかなぁ…


視線はまだ刺さる。


自分でも、なんでそんな行動をしたのか分からない。


二人の間に置かれてた、美月の手に自分の手を重ねた。


ただ、視線は外を見てた。




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