マツモト先生のこと―離島で先生になりました―
春編:離島で先生になりました

3月下旬

 あたしの人生、終わった。本気でそう思った。大学の卒業式の日、袴もメイクもぐっちゃぐちゃにして泣きまくった。

 なんだって最初の赴任先が離島の小学校なのよ!

 全校児童三十人のミニマム校だなんて。島民の七割が漁業・兼・農業だなんて。フェリーが日に二便で、朝刊が夕方にしか届かないなんて。下水道普及率二十五パーセントだなんて。

 最っ低。

 三月の終わり、朝のフェリーに乗って島に渡った。で、昼間いっぱい、島を偵察。ついでに、赴任予定の小学校を訪ねてみた。ありえなくボロっちい二階建て校舎にゲンナリした。

 校長先生と話した。方言バリバリの、優しいおじさんだった。

 離島の教員の引っ越しには、赴任先の教職員とPTAが総出動するらしい。本土のあたしの実家まで校長先生が自ら軽トラを回してくれるから、引っ越し代はかからない、とのこと。

 カルチャーショックだ。引っ越しなんて業者さんが何から何までやってくれるこの時代に、ご近所さんパワーとは。

 あたし、そういう世界に行くのか。引っ越しっていうか、むしろ、タイムスリップ? 電気とか水道とかガスとか、本当に通ってる? ケータイ、使える?

 実際のところ、電気や水道はフツーにあったし、ケータイの電波もちゃんと入った。

 でも、ガスは当然プロパンで、ネットはもちろんADSL。ケーブルテレビのラインが海底を走ってつながってるわけもなく。

 銀行がないから口座関係はすべて郵便局。ラジオには韓国語がガンガン入ってくる。

 車のガソリンは、船の輸送コスト分が上乗せされて、リットルあたり十円も高い。

 映画館もカラオケも、あるわけない。

 コンビニやファーストフードなんて最初から期待してなかったけど、◯◯商店や□□ストアが夕方五時に閉まるってのには唖然とするわ。

 あたし、マジでこんなとこで生きていけるの? 絶望。最悪。お先真っ暗。本土へ帰る夕方のフェリーの甲板で、あたしは泣けて泣けて仕方がなかった。
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