マツモト先生のこと―離島で先生になりました―

4月4日

 今日は土曜日だ。遅々として進んでない片付けを、そろそろやっつけなきゃいけない。段ボール箱から服を取り出して身に着けるなんて、ありえない話だもの。

 朝早くから、子どもたちが校庭に遊びに来ていた。あたしが住むことになったオンボロ教員住宅は、校庭を出てすぐのところにある。当然、子どもたちの声がガンガン届いてくる。この近さじゃあ、居留守は使えないな。

 家具や家電は、引っ越し当日に、男の人たちの手を借りて配置してもらった。こまごました身の回りの品を片付けてくだけなんだけど、これがなかなか進まない。

 あたしって、こんなに物持ちだったっけ? というか、台所と部屋と、どっち先に片付けよう? あっちをやったり、こっちに手を着けたり。全然、作業がはかどらない。ヤバい。あたし、引っ越しって苦手かも。

「タぁカハぁシせぇんせぇー! 遊ぼぉー!」

 予想はしてたんだけど、子どもたちが窓を叩いた。ちょっとぉ、洗濯物をくぐって現れないでよ。

「ごめんね、引っ越しの片付けが終わってないの。片付いたら、遊びに行くから」

 段ボール箱の山を見せて、両手を合わせて、お誘いをお断りする。あんまり終わる気もしないんだけどね。

 子どもたちは聞き分けがよかった。わかったバイバイと言って、海沿いに伸びてるコンクリート敷きの道を走っていった。

 窓を開けてると、家の中にいてさえ、潮騒の音が聞こえてくる。大きな生き物が規則正しく呼吸を繰り返してるみたいな音。暗くなったら、窓を開けてなんかいられないな。

 ため息ひとつ。

 あたしは、かぶりを振った。とりあえず、今は片付け。音楽を聴きながら作業しよっかな。あたしは手近な段ボール箱を抱え上げた。

 黒光りするイキモノが畳を走った。

「ぎゃっ!」

 あたしは抱えたばかりの段ボール箱を、そのイキモノ目がけて叩き付けた。段ボールの中で、本やらCDやらが悲鳴をあげた。

 最低。倒したはいいけど、あれの処理、どうすればいいの? ほんっと最低……。そのままにしとくわけにもいかない。あたし、泣きそう。

 現場を見ないように気を付けながら段ボールを脇によけた。掃除機で徹底的にそれの痕跡を消す。その後、化学ぞうきんで徹底的に畳を拭く。畳がちょっと色落ちして毛羽立った。

 ああ、もう、この超絶イナカっぷり。いやになる……。
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