さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚


珠海樓(お店)を出たわたしは、すぐさまミニバッグから眼鏡を取り出し掛けた。
プラベで使っている、見た目の印象に響きにくいクリアフレームのものだ。

——なんだか景色だけじゃなく、物事自体が鮮明に見えるようになった気がするわ……


「菅野先生、今夜はうまくできなくて申し訳ありませんでした」

わたしを送っていくからと言って、これからタクシーで横浜へ帰る両親と離れて一緒に出てきた彼に頭を下げる。

そもそも「偽彼女」を請け負ったことが間違いだったのだ。
弁護士なのに、人を欺くようなことなど絶対にしてはならなかった。


「いや、こちらこそ、ずいぶんときみにはイヤな思いをさせてしまって申し訳なかったよ」

菅野先生はそう言って、首を(すく)めた。

「両親にきみとの『交際』を告げたら、それなら自分たちも会いたいって急に言い出してね。
特に母がいったん言い出すと、うちの家族はだれも止められないんでね」


結局のところ、今夜の会食は彼のお父様がカードを切ってご馳走してくださった。

——たぶん、もうあの人たちとお食事することはないと思うけれども……

< 102 / 188 >

この作品をシェア

pagetop