さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
マンションのエントランスに到着したことを、スマホで知らせる。
すると、オートロックの扉がうぃぃんと開いた。
フロントカウンターで控えていたマンションコンシェルジュに名乗り、これから訪れる部屋番号を告げる。
勝手知ったる足取りで奥の高層階用エレベーターへと向かうと、高速で上昇するエレベーターに乗る。
そして、フロアに降り立ったわたしは目指す部屋の前に立ち、玄関ポーチにある門扉のインターフォンを押した。
「……光彩ちゃん、よく来たね」
エプロン姿をした男が満面の笑みでドアを大きく開く。
わたしより三つほど歳上のはずだが、どちらかと言えば小柄な上に童顔なため、二〇代後半に見えなくもない。
「朝から仕込んでおいたタンシチューができあがったところなんだ。食べるでしょ?」
「わぁ、うれしい!
もちろん、いただくわ。幸生さん」
わたしもまた満面の笑みを返した。
——幸生さんのタンシチューにありつけるなんて、ツイてるわ!
玄関の中に入りヒールを脱いで、すでに漂うタンシチューの美味しそうな匂いに誘われるまま、幸生さんのあとについてリビングダイニングへと向かう。
「光彩、ひさしぶりね。いらっしゃい」
ダイニングテーブルで、書類に囲まれながらWindowsのPCのキーを叩く女が眼鏡を外しつつ、顔を上げた。