さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
『……光彩か。私だ』
父の声だった。ますますめずらしい。
「どうかされましたか、所長?
申し訳ありませんが、このあと予定が詰まっていますので、ご用件は手短に願いたいのですが……」
わたしは「上司」である父に「部下」の口調で言った。
『今は「父親」として、おまえに電話している』
——えっ?
父は勤務時間内に「公私」を一緒くたにするような人ではない。
むしろ、だれよりもそれを嫌う。
だから、掛け値なしに、びっくりした。
『おまえ……菅野と結婚を前提にして付き合っているって本当か?』