さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜

——な、なんでそのことを……

『おまえ、先週に向こうの両親と食事会したんだってな?
……菅野から、うれしそうな『報告』の電話があったぞ』

内線電話の先にある父の声は、不機嫌極まるものだった。

——その『菅野』というのは……菅野先生のお父様の方ね。

父の学生時代からの友人だ。「悪友」と言ってもいい。

——あんな殺伐とした「食事会」を『うれしそう』に『報告』できるなんて、ある意味すごいわー。

わたしはあのときの光景を思い出して、思わず遠い目になる。


『なんで向こうが先なんだ。
まず菅野とおまえが、私に報告に来るのが「筋」じゃないのか?』

今のは菅野先生の方だ。ややこしい。

「おとうさん、菅野先生とお付き合いすることになった、っていうのには『事情』があるのよ」

わたしは声を殺して息だけで話した。
このブース内には、部下の斎藤がいるのだ。

——まぁ、「守秘義務」は厳守する子だから、ぺらぺらと言いふらすようなことはしないと思うけどね。

『事情?……なんだ、それは?』

「今は仕事中だから、これ以上は……
あ、そうだ。菅野先生とは一緒に帰れないけれども、わたしだけでも今度の日曜日にうちに帰るから、そのときに説明するわ」

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