さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
「かっ、翔くんっ!『すぐに来てほしい』って、どういうこと?」
わたしはディスプレイに向かって叫んだ。
すると、スマホの向こうからガタガタッ…と大きな物音がした。
『あっ、茂樹さんっ!大丈夫ですかっ⁉︎
ダメですよっ!急に立ち上がったら……』
続いて、翔くんの切羽詰まった声が飛んでくる。
「な、なに?どうしたのっ?
茂樹に……なにかあったのっ⁉︎」
ビデオ通話に切り替えようか、そう思ったとき……
『す、すいません、お忙しいところ本当に申し訳ありませんが、よろしくお願いします!』
わたしの問いかけにも答えられないくらい切迫しているのか、翔くんからの通話が急に途切れた。
そもそも、翔くんが茂樹のスマホを使ってわたしに通話してくること自体、初めてだった。
「……おとうさん……どうしよう……
し、茂樹が……大変なことに……」
スマホを耳に当てたまま、わたしは呆然と父を見た。
今にも泣き出しそうな、気弱な幼子のような顔をしているに違いない。
「どうするもこうするもないだろう。
緊急事態なら、駆けつけるしかないじゃないか」
「で、でも……」
わたしは隣に座る菅野先生を見た。
「もし、きみが彼のところへ駆けつけるのなら……」
菅野先生が、わたしを見つめ返した。
「一つだけ、約束してほしい」
——『約束』?
「きみの心の中に……まだ『島村 茂樹』という男が存在しているうちは、おれと結婚するわけにはいかないだろうからさ」
——あぁ、この人は……
わたしの心の中には、まだ「茂樹がいる」ことを見抜いている……